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『知謀を求められてとのこと。是非とも我をお使いくださいませ。アリッサ様の御身は勿論、大切な方々も護れるように知恵を絞りましょうぞ!』
真っ黒いメンフクロウが、ぐるりと頭を回す。
可愛い。
凄く可愛い。
もっさもっさにしたいが、許してもらえるだろうか。
私の興奮を察知したのかシルキーが、ささっと紅茶の入ったカップを差し出してくれる。
どうやら鎮静効果のあるハーブティーだったようだ。
香りを嗅いだだけで、めらっと燃え上がった駄目な欲望を瞬時に消してくれた。
「それでは、ステータスはこちらになります」
空中に浮かび上がるステータスウインドウは、黒薔薇の飾りがされていた。
妖精 ブラックオウル
HP 1000
MP 50000
SP 1000
スキル 交渉 交渉事を有利に進められる。
隠蔽 都合の悪いことを隠し通せる。
封音《ふうおん》 音を消す。
漏れないようにする。
密談時に使用。
奇襲 敵に多大な損傷を与えられる。
速攻 必ず先制攻撃ができる。
暗殺 対人殺傷に大ダメージ。
隠密 敵殺傷に大ダメージ。
低確率だが即死効果有。
解錠 どんな鍵でもダメージなく開けられます。
詳細鑑定 真偽で気になった点を徹底的に暴ける。
魔法 *風魔法
ウインドアロー 敵を風の矢で貫く。
単体絶大ダメージ。
ウインドカッター 敵を風で切り裂く。
連続ダメージを与えられる。
範囲。
ウインドウォール 風の壁で敵から身を守る。
全体。
ウインドサークル 風の力で敵を攻撃範囲から飛ばす。
範囲。
ウインドウイング 空を飛ばすことができる。
一部の罠を100%回避。
単体
ウインドクリーン 空気系(毒霧、眠り香他)のダメージを回復。
単体
転移魔法 契約者もしくは自分が一度行った場所なら異世界でも転移できる。
混乱魔法 知能が高い者にほど絶大な効果がある。
混乱死、混乱衰弱に至る。
固有スキル 知謀 あらゆる場面に置いて主に都合の良い最高の提案ができる。
索敵 モンスター他敵対心を持つ者をいち早く察知できる。
危険度が高ければ高いほど、遠くから察知可能。
暗視 暗闇でも明瞭に見える。
遠視 遠くても明瞭に見える。
真偽 人や物の価値を明確に見抜く。
称号 異世界を行き来し者。
風魔法を極めし者。
完全隠蔽ブラックオウル。
時空制御師の友人。
当然だが称号に釘付けになった。
「……主人がお世話になっております」
『ふおっふおっふおっ。黙っておってすまんのぅ。御方の奥方様』
「あちらでもお目にかかったことがありますよね?」
動物系カフェに行きたいと溜め息をついていたとき、夫が連れてきてくれた一羽のクロメンフクロウ。
頭が良くて人懐っこくて可愛くて、もさもさも散々させてもらった。
今にして思えば、夫は友人だから安心して連れてきたのだろう。
普通のフクロウのように私をむやみに傷つけたりしないからと。
『その節は可愛がっていただきましたなぁ。奥方様の撫で方は大変に至福でございましたゆえ、今後もどうぞ遠慮なく、えー……もふり? くだされ』
何時の間にか薄いクッションが置かれていた膝の上にふわっさあっと飛んできたので、そっと頭を撫でる。
つるんとした毛の感触が最高だ。
「……ブラックオウル? 貴女、称号も転移魔法も隠蔽していましたね?」
『うむ。そちは御方を妙に恐れておるからの』
「優しい人ですよ? ……身内には」
「はい。とてもよく、存じ上げております。私などの考えなぞ遠く及ばぬ方だとも! だからこそ、畏れて敬うのです。今回はとても良い御縁を繋いでいただきましたから、自ら断ち切らぬように誠心誠意手配いたしますので、アリッサ様には、どうか御安心くださいませ」
夫を知って畏れ敬うのならば問題はない。
ブラックオウルもそれを見越した上で、称号などを隠したのだろう。
余計な気を遣わせないために。
それはノースロップに対する信頼の証に違いない。
「さすがは、闇色の薔薇の主。すばらしく良い人材を用意しましたね?」
「ありがとうございます。人材の質という点、またアリッサ様に相応しい人材を揃えるという点では、百合の佇まいの主も同じだったと思われます。ただ彼女は若い。若さゆえに御方様を理解し得なかった……」
「それ以前の問題でしょう。客を侮った挙げ句偽ろうとするなどとは!」
「無論でございます。驕り高ぶった者の、愚かなる選択であることは間違いございません。同業者として、アリッサ様とナルディエーロ様には深くお詫び申し上げます」
深々と頭を下げられる。
プライドを持つならば、こうであってほしい。
少なくとも私はそう思う。
「ノースロップさんが謝罪する必要はないと思いますが、謝罪を受け取ります。百合の佇まいを二度と利用することはありませんが、こちらにはまた足を運びたいと思っておりますから」
「光栄の極み。是非ともよろしくお願いいたします」
「……百合の佇まいの情報はどこまで掴んでいるの?」
「アリッサ様たちがあちらを出ましてのち、主立ったメイドたちが館を辞し、館主が情報を再収集し始めたところまでです。アリッサ様たちとの契約が終わりました頃には、こちらにも情報開示の打診がありそうですね」
「メイドたちは一生懸命だったわ。もし介入できるなら次の就職先の口利きをしてあげてほしい。アリッサもいいかな?」
「当然! 彼女たちに悪意はなかったし、館主の有り得ぬ命令には不服の色を乗せていたしね。退職は館主への抗議の意味もあるから、良質なメイドと保障して紹介してもらえると嬉しいです」
「確かに承りました」
ノースロップがひらりと手を振ると彼女の肩へ漆黒の鳩が一羽止まる。
くるっぽーと鳴いた鳩は私たちに向かって愛らしく頭を下げると、瞬きする間に姿を消してしまった。
「伝書鳩です。妖精ブラックピジョン。登録が必要な上数か所のみですが、転移ができます。一連の流れを伝言しメイドたちが向かうであろう従者斡旋所に向かわせました」
すばらしくフットワークの軽い手配だ。
これで困った雇い主から解放されたメイドたちが、今度は良い雇い主に恵まれればいい。
ブラックピジョンとは拠点を幾つか持つようになったり、知己ができたりしたときには、何羽か契約するのも良さそうだ。
「それでは引き続き、騎獣としての紹介です。幻獣ユニコーン、幻獣バイコーン。本来は人を乗せませんし、馬車も引きませんが、アリッサ様なら喜んで乗せるし、馬車も引くと申しております」
『幻獣 ユニコーン。本来は乙女しか触れさせませんが、奥方様には是非騎乗していただきたい。浮遊魔法が使えますので、どんな重い馬車でも全力で引いて御覧に入れましょう!』
『幻獣 バイコーン。重力魔法が使える。奥方様の要望にはちゃんと応える。是非とも契約していただきたい』
どちらも漆黒の馬。
額には白銀に輝く、ユニコーンには一本の角、バイコーンには二本の角。
鬣と尻尾が艶やかに美しい。
大きさは世界ギネス記録を持つベルジャン種くらいだ。
どうやって乗るんだろう?
低めの脚立が必要なサイズだ。
「……どうやって乗るの?」
『後ろを向いて、首に跨がっていただけますか?』
「こんな、感じ? え! ひやいっ!」
乗った途端下がった首が持ち上げられる。
首を滑り台な感じにして滑ったあとは、胴体の位置に尻が固定された。
『俺も同じように乗ってくれればいい。人型なら三人までは乗れる。スキル馬装《ばそう》と乗馬の効果で、初心者でも安全快適に乗れる』
ユニコーンに跨がれば、バイコーンが説明してくれた。
尻から頭部までを保護してくれる、クッション性の高い椅子に座りながら移動している感覚だ。
振動も揺れもない。
手首には優しく馬毛が絡んでいた。
『手首の毛から、主の意思が伝わるので特に指示する必要もない。また特に指示がない場合は、周囲の景色が楽しめる安全歩行となる』
何時の間にか広くなったように錯覚する部屋の中を、ユニコーンがかっぽかっぽと小気味良い足音をさせて歩く。
バイコーンは隣で説明を続けてくれる。
『馬車も二台用意してある。ノースロップがおまけにするようだ』
「我が儘な二頭が細かく注文を付けた馬車なんで、気に入ってもらえると思いますよ。ステータスはこんな感じになります」
幻獣 ユニコーン
HP 5000
MP 8000
SP 1000
スキル 長距離移動 移動が長いほど疲労が軽減される。
耐寒移動 寒い場所での移動に滅法強い。
前蹴《まえげり》 敵に蹴りで攻撃。
獣系モンスターに大ダメージ。
踏潰《ふみつぶし》敵を踏み潰す攻撃。
自分より小さいモンスターに大ダメージ。
咆哮 一定時間敵の行動を停止させる。
停止時間は相手の強さによる。
魔法 *光魔法
ホーリーアロー 敵を光の矢で貫く。
単体絶大ダメージ。
ホーリーウォール 光の壁で敵から身を守る。
全体。
ホーリーサークル 聖なる光で敵を浄化。アンデット系に大ダメージ。
範囲。
浮遊魔法 物を浮かせられる。
主に馬車を浮かす。
敵を浮かせたりもできる。
幻影魔法 幻を見せることができる。
固有スキル 乗馬 馬に乗れない人を乗せられる。
馬装 高級馬具をつけているような快適な乗り心地を与える。
嗅鋭《きゅうえい》 臭いで敵を判別できる。
偽装隠蔽が通じない。
後蹴《うしろげり》 敵に蹴りで攻撃。
人型モンスターに大ダメージ。
称号 スレイプニルに勝ちし者。
時空制御師を乗せし者。
長距離覇者。
幻獣 バイコーン
HP 5000
MP 1000
SP 5000
スキル 水中移動 水中を迅速に移動できる。
馬車も濡れない。
俊足移動 早く移動している最中は疲労が軽減される。
耐熱移動 暑い場所での移動に強い。
後蹴
突進 敵に馬身をぶつけての攻撃。
自分より大きいモンスターに大ダメージ。
角での攻撃が決まると即死。
嘶き 主のいないバイコーンを複数召喚できる。
魔法 *闇魔法
ダークアロー 敵を闇の矢で貫く。
単体絶大ダメージ。
ダークウォール 闇の壁で敵から身を守る。
全体。
ダークサークル 闇の力で敵を異界へ送り込む。
範囲。
重力魔法 重力を操れる。
馬車を軽くできる。
敵を押し潰せる。
固有スキル 乗馬
馬装
嗅鋭
前蹴
称号 スレイプニルに勝ちし者。
時空制御師を乗せし者。
駿足覇者。
「あ。結構違ったりするんだ」
そして夫を乗せた経験があるんだ。
シルキー以外は関わりが深いのかな?
シルキーも接触ぐらいはしたと思うけど。
『時々に応じてメインで使う方を選んでほしい。旅の安全を迅速に確保できると思う』
『移動手段としては当然ですが、戦闘でもお役に立てると思いますよ!』
確かに騎乗として使うだけでは勿体ない気もする。
妖精・幻獣たちにフォローしてもらって、パーティーを分けてレベル上げ的なものをお願いするのもありかな?
「さて、アリッサ様。如何いたしましょう? 当館はアリッサ様の御要望にお応えできましたでしょうか?」
「ええ。すばらしいです。要望以上ですよ! 当然全員と契約させていただきます」
「それでは、名付けをお願いいたします」
「えーと……シルキーはノワール。黒そのものを表現する言葉よ。ブラックオウルは、ランディーニ。黒百合の一品種ね。ユニコーンがホークアイ、バイコーンがモリオン。どちらも黒色の宝石なの。色で統一してみたけど……どうかしら?」
「素敵な名前をありがとうございます。今後は是非、ノワールとお呼びくださいませ」
「ふおっふぉ! 我に花の名前をつけるとはのぅ。全く以てセンスの良い」
「宝石ですか! 何とも華やかで煌めかしい名前ですね! 大切にいたします」
「綺麗で格好良い名前を頂戴した。名に恥じぬよう努めると誓おう」
「うん。どれも似合う名前だと思うわ。アリッサは名付けのセンスがあるわよね!」
沙華にまで褒められて照れくさい。
気に入ってもらえたのは本当に嬉しいのだけれど。
「それでは、名付けによって契約は無事締結いたしました。一応書面にも認めましたので、御確認くださいませ」
テーブルに置かれた書類を沙華と二人で読み込む。
基本的に名付けが完了した段階で主従関係が始まり、絶対服従だそうだ。
ただし、余りに主人らしくない行動や言動が続くと妖精・幻獣の方から名前を捨てて立ち去る悲劇も起こるらしい。
食事は必要ないが人と同じ物を楽しめるようだ。
またスキル等を使用すると、主人のSPによって自動回復するらしい。
SPが少ない主人は警戒が必要との注意喚起があったが、私には関係のない話だった。
「代金は必要ないとのことだけれど、お礼がしたいなぁ。何か欲しい物はありますか?」
「……初めての申し出でございます」
「え? そうなの? あの人は何もしなかったの!」
「御方様は……仲介する報酬はあってしかるべきだから、望む物を申し出てほしいと」
「言葉は違うけど、ちゃんとしてるのね。良かった」
疑ってごめんなさい、喬人さん!
……こちらこそ、百合の佇まいの一件は失礼いたしました。
や。
良い人を選んでもらったし。
さくっと因果が巡ってるみたいだから、気にしないでほしいな!