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「松雪 双葉。とても良い名前だ。だけど、その苗字……変えてみないか?」



すぐ横から響く声が、あまりにも色っぽくて震える。



「苗字を……変える?」



「ああ。双葉の歩む人生を、俺が隣で支えたい」



「えっ?」



「俺は……君が好きだ」



「……」



「初めて会った時から、君のことが気になって仕方ない。一目惚れなんてするはずがないと思っていたのに、今はこの気持ちが何なのかはっきりとわかる。俺は、双葉を愛してる」



そんな……嘘……でしょ?



まるで映画のワンシーンのように投げられた甘いセリフ。あまりに突然過ぎて、呼吸の仕方もわからなくなる。



「な、何を言ってるんですか? あなたは常磐グループの御曹司ですよ。バカな冗談は止めて下さい」



そうは言いながらも、目の前の常磐さんを見ていると、何かを期待し、高揚する気持ちを抑えられなかった。



「バカな冗談? 俺は、こんな冗談を言えるような男ではないつもりだ」



「でも、やっぱり嘘です……こんなこと……」



もみじちゃんが書く恋愛小説のような御曹司との恋。

それは、空想や妄想の世界の話だと思ってた。



現実には絶対に起こらない夢物語――



「誰かをこんなにも深く愛したのは初めてなんだ。君は、俺が信じられない? 俺が嫌い?」



「嫌いだなんて! でも、あまりにも現実離れした話で、理解に苦しみます」



荒々しい波のように揺れ動く心。

どうしようもなく高ぶる気持ち。

それでもやっぱり、私が常磐さんに愛されてるなんて信じられない。



「確かに、急には理解できないかも知れない。実は、俺は叔母から見合いの話が耐えなくて困ってる。30歳にもなって独身なんてかっこ悪いから早く結婚しろと迫られているんだ。見合いは全部適当にごまかしてスルーしてきたけど、双葉が婚約者になってくれたら叔母も諦めるだろう」



「私が常磐さんの婚約者?」



「ああ。叔母にはそう伝える」



「ちょっと待って下さい。私なんかが婚約者だなんて、反対されるに決まってます」



きっと、常磐グループに関わる全ての人から反対される。身分が違い過ぎるのを、常磐さんだってわかってるはずなのに……



「そんな心配はしなくていい。君のような素敵な女性がいるとわかれば叔母も安心する」



「す、素敵だなんて。常磐さんは、女性を見る目がなさ過ぎます。視力検査された方がいいんじゃないですか?」



「視力は1.5だ。検査する必要もなければ、女性を見る目もちゃんとある。今まで……そういう人に出会えなかっただけだ。とにかく、今は俺の気持ちを理解できなくても、婚約者として側にいてほしい」



「そんな……」



付き合ってもないのにいきなり婚約者?

婚約者って……本来どういう存在だった?

ああ、ダメ、頭が混乱してる。



「双葉には、いつか俺を好きになってほしい。いや、必ず好きにさせる。だから、俺から離れないで」

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