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あなたの唇に、軽く触れるだけの口づけを落とした。ほんの一瞬だったのに、胸が焼けるように熱くなる。
「……っ」
あなたはわずかに息を呑み、目をそらそうとする。
けれど、私の指がその頬を押さえて離さない。
「ダメだよ。私から逃げちゃ」
囁きながら、私は布団を引き寄せ、あなたを優しく包み込むように覆いかぶさった。
まるで檻の中に閉じ込めるみたいに。
◇
リビングの時計が、無情に時間を刻んでいく。
けれど、今日は誰もあなたを呼びに来ない。
玄関の鍵は、昨夜のうちに私が取り替えたから。
「もう安心して。
ここには、私とあなたしかいない」
私はあなたの肩に顔を埋め、深く息を吸い込む。
あなたの匂いで胸の奥まで満たされていく。
「ねぇ……誰かと笑う必要なんてないよ」
「……」
「電話も、メッセージも、もういらない。私が全部消してあげたから」
あなたの目が見開かれる。
言葉にならない戸惑いが浮かぶその瞳を、私はゆっくり撫でる。
「大丈夫。少しずつ慣れていくよ」
「……俺、外に……」
「ダメ」
かぶせるように強く言った。
自分でも驚くほど冷たい声だった。
「外は危ない。
友達も、家族も、あなたを本当には守ってくれない。
でも――私だけは違う」
あなたの手を握りしめ、震える指先に唇を押し当てた。
「約束して。
もう二度と、私から離れないって」
沈黙の中、時計の針の音だけが響く。
窓の外の朝の光は眩しいのに、部屋の空気は重く張り詰めていた。
私は笑う。
その笑みは、愛なのか狂気なのか、自分でもわからない。
「ねぇ……誓ってくれるよね?」