コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◻︎急病
デスクに戻って、資料を見た。一枚に付箋が貼ってある。
_____ん?電話番号?
11桁の数字は、明らかに誰かの電話番号だけど、誰?
『これも目を通しておいて…』
健介が渡してきたものということは、プライベートの番号?クシャッと丸めてゴミ箱に捨てた。
「結城君、ちょっと!」
デスクに結城を呼ぶ。
「はい、なんでしょうか?」
「さっきの新田さんの話を参考にして、プロジェクトの準備に取り掛かって。あと3人誰か仲間に入れてね。進捗は、都度報告するように」
「はい、わかりました。3人は…」
「確か今は隣のチームが、手が空いてると思うから」
_____とにかく今は、プロジェクトを成功させなきゃ!
パソコンのメールをチェックし、抱えている仕事をこなしていく。仕事はきっちりやらないと、私は一人で生きていくんだからと気合が入る。
_____アイツのことなんか、かまってられない
猛烈に仕事をこなした。1時間だけど残業もした。どうせ帰っても誰も待つ人はいないから。
「さてと、帰りますか」
ほとんどが帰ったフロア。思わず独り言が漏れる。オフィスを出て地下鉄に乗って、駅から10分に私の城がある。
30年ローンで買った、私だけの城。1LDK60㎡、15階建の6階。コンビニで買った缶チューハイとおつまみを提げて、エレベーターに乗った。
このマンションは、単身者が多いのが気に入ってる。家族で住むには少し狭い。そのおかげで子どもの声がすることもなく、静かに過ごせる。
鍵を開けて、閉じ込められた日中の空気でムッとする部屋へ入り、エアコンを入れた。
_____手を洗って、とりあえず飲もう
奮発して買った白いソファで、ライムの缶チューハイをプシュッと開ける。
「ぷはぁ!たまらん!空きっ腹に沁みるなぁ」
オジサンみたいだよな、と自虐的に考えることはとっくにやめた。だってここは私の城、私の好きにしていい場所なのだから。
見るともなくテレビをつけて、お笑いタレントが出てるバラエティー番組を観る。頭の中に蔓延ってる仕事のことや、不快な雑多なことをリセットする。
「あはは!くだらないなぁ!もうっ!」
声に出して笑う。私は寂しくないんだと思いたいから。
_____一人でも寂しくない、結婚なんていらない
呪文のように唱えながら、今夜は3本目をあけた。
テレビもライトもつけたままでソファで寝てしまうけどそれも、一人ならではの贅沢だ。
_____あれ?
どれくらい寝てしまったのだろう?
エアコンでお腹が冷えたのか、刺すように痛み出した。痛い、と思ったらもう止まらない。
「いったぁ…、なに…なんで…」
お腹を抱えて丸くなっても、ゆっくり深呼吸してみても痛みはどんどんひどくなる。トイレに行きたいような気もするけど、立ち上がれそうにない。汗が吹き出してきた。
自分のお腹で何がおきているのか、わからない。
痛い。
痛いよぉ…。
こんな痛みは経験したことがない。息をしても痛い。
私はテーブルにあったスマホをなんとか見つけた。119をタップする。
「い、痛い…」
その後は記憶がなかった。