◻︎身内
「…さん、森下さん!」
誰かが私を呼んでる声がする。とても瞼が重くて目を開けることができない。
_____でも、目を覚まさないと…
うっすらと開いた瞼の隙間から見えたのは、白い天井と私を覗き込む誰か。
「あっ、森下さん、よかった、気が付いたんですね」
ボヤけていた視界がやっとひらけてきて、名前を呼んでいたのは部下の結城だとわかった。
「…えと、あれ…」
ここはどこで、自分がどうなっているのか把握できない。
「大丈夫ですか?痛みは?」
「うん、えっと、なんで?」
「森下さん、お腹に石が出来てたみたいで、その痛みで救急車を呼んだ、とこまではおぼえてますか?」
_____あー、うん、そうだ
「ものすごく痛かった、うん、でも…」
なんで結城がここにいるのか?と聞きたかったんだけど。
「石はなんか衝撃波を当てて破壊したみたいですよ、あとはそのうち出てくるとか」
「失礼します、森下さん、お目覚めですか?」
担当医らしき人が入ってきた。
「痛みはないですか?」
「はい、えっと、あの…」
私は目線で結城をさす。
「あー、手にしてらしたスマホからお身内の方に連絡したんですが、今、入院してるとかでこちらには来れないということでしたので、それ以外で履歴の多かったこちらに勝手に連絡してしまいました。申し訳ありません」
_____入院?
「あ、そうでしたか、ありがとうございました」
私の母は数年前に他界し、今は実家で父親だけが暮らしているはずだったけど。いつのまに入院してたんだろう、知らなかった。ずっと連絡も取っていなかったことを少し悔いた。
それから簡単に症状の説明があって、明日には退院できると言われた。
「では、事務的なことは後ほど担当者が来ますので」
そう言って、帰っていった。
「よかったですね、森下さん。病院から連絡をもらったときは、心臓が破裂しそうになりましたけど」
「ごめんね、まさか、結城くんに連絡がいくなんて思わなかったから」
「いえ、俺はうれしかったですけどね」
「え?」
「いやほら、先生も言ってたじゃないですか、履歴が一番多かったのが俺だったからって」
「あー、それはね…」
勤務時間外でもたまに仕事の連絡を取る時があるから、その履歴が個人のスマホに残っていただけだろう。
「つまり、こういうことですよね?森下さんがプライベートで一番連絡を取ってるのは俺、ってことですよね?」
「まぁ、そういうことになるか…」
そんなに頻繁に連絡をしているわけでもなく、個人的な用事でかけているわけでもないのだけど。特に親しい人がいないから、履歴としては結城がトップにくるだけのことだ。
「やった!つまり、彼氏、いないってことですよね?いや、いたとしても、俺の方が密に連絡しあってるってことだし」
なんだかよくわからないけど、突然の病院からの呼び出しにも迷惑がってる様子もないから、ヨシ!としておこう。
「ね、悪いけど、会社にも事情を説明して明日まで休むと連絡しといてくれないかな?」
「もちろん、いいですよ。そんな大事な役目は、俺がしっかり果たします」
_____なんでこんなに気合が入ってるんだ?
とても張り切ってるように見える結城を、意味がわからないまま横目で見ていた。
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