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――四月、桜の残り香
大学の新歓祭は、浮ついた空気に満ちている。
教室の窓から射し込む春の光は柔らかく、浮かれた新入生の笑い声がそこかしこで跳ねていた。
けれど神楽湊にとって、そんな光景は騒がしくて鬱陶しいだけだった。
「……どうせ、どこに入っても似たようなもんだろ」
興味のなさそうな声でつぶやきながら、湊はパンフレットを無造作にめくった。演劇サークル、軽音、文芸、写真。
どれも自分には縁がない気がして、早く帰ってしまいたいとさえ思っていた。
そんな時だった。ふいに、目の前の空気が変わった。
「ねぇ、君――新入生? 良かったら見学していかない?」
聞き慣れない声。
顔を上げると、そこに立っていたのは、あまりにも整った顔の男だった。
栗色の髪、いたずらっぽく細められた目、華やかすぎる笑顔。
誰もが振り返るようなオーラを持ったその男は、まるで舞台から抜け出てきた役者のようだった。
「……演劇サークル、か?」
「うん。俺、篠原蓮。二年。君、名前は?」
「神楽湊」
「ふーん、神楽くんか。いい名前だね。顔も整ってるし……君、舞台映えしそう」
蓮は笑いながらぐいと近づいてきた。その距離感の無さに、湊は無意識に一歩引いた。
だが、その時――
「わ、蓮先輩。またナンパしてるー!」
後ろからぱたぱたと駆けてきたもう一人の新入生が、湊と蓮の間に割って入ってきた。
「すみません、この人いつもこうなんで!」
彼は人懐っこく笑って、湊の顔を見て目を丸くした。
「あ、でも君も新入生? 神楽くん……って、言った? 俺、橘伊織。もし良かったら、今日の見学一緒に行かない?」
その笑顔が、ひどくあたたかかった。
蓮のような圧のある華やかさではなく、どこか親しみと優しさを含んだ春のような笑み。
湊は、不思議なことにその笑顔に抗えなかった。
「……ああ。暇だし、行ってみる」
その日からだった。
演劇サークルに入るつもりなどなかった湊が、足繁く通うようになったのは。
そして、その日から――
蓮と伊織と湊、三人の関係が静かに歪み始める。