コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
しばらくは水とマヨネーズでなんとかしのいだ、誰もいない母屋
思い出してみても、父と継母はいつもお互いを罵り合い、酔ってはヤっていた、それしかしていなかった
やがてマヨネーズは空っぽになり、直哉は真ん中をハサミで切って、最後の一滴まで指ですくって舐めた
次第に腹はどんどん痛くなる、水を飲んでも一向に収まらない、下痢便が出るだけだ
吐き気と刺すような痛みが交互におこる、触ってみると胃はへこみあばら骨がポンッと飛び出していた
お母さんが死んで悲かった、寂しかった、新しいお母さんが出来て嬉しかったのに裏切られた
体が痒い、頭も2分おきにボリボリ搔いている、腹が減ってあちこち痒い
そこで初めて直哉は思った、自分はネグレクトの親の元に生まれて、自分のことを気にかけてくれる人は、もうここにはいないことに初めて気が付いた、この家はとっくに家庭としての機能を失っていた
ここにいれば自分は死ぬと思った、最後の力を振り絞ってヨロヨロと立ち上がった、野良犬でももっと早くそうしていただろう
足が無意識にどこかに動き出していた、真っ暗な闇夜にコオロギの鳴く声だけが聞こえる
今まで何度も行こうかと思ったことがある、真っ暗な湖のほとりを一人、月明かりを頼りにヨロヨロと歩く
ある場所へ向かって
蛍が数匹直哉の周りを優しく飛んでいる、まるで励ましてくれてるみたいだ
行こう・・・あそこへ・・・
..:。:.::.*゜:.
物心ついた時から、どうして離れて暮らしているのかわからなかった
でも父親に行くなと止められていた、行ったらひどい目に合わされると思っていた、父の拳は継母の張り手よりも強烈だった
でも今はそれしか考えられなかった
足が重いが蛍の光を頼りにとにかく、一歩、一歩ゆっくりでも歩き出す
もう少し・・・頑張って・・・
..:。:.::.*゜:.
湖の畔・・・大きな瓦屋根の古民家・・・灯りがついていた
腹が痛くてしかたがない、吐き気が何度も襲ってくるが、吐いてももう何も出ない
最後の力を振り絞って、家のドアを叩いた、ピアノの音がする
ガラッと玄関が開いた
「なっ・・・ナオ・・・か? 」
真っ暗闇の中を歩いてきたので、部屋の電気が眩しい、目を凝らして見ると、兄貴の北斗が驚いた顔をしていた
ぐらりと意識は遠のき、北斗の胸に倒れ込んだ、さっきまで一緒の蛍はもうどこにもいなかった
ほら・・・もう安心・・・・
..:。:.::.*゜:.
目が覚めると北斗が目の前にいて、顔を覗き込んでいた
「大丈夫か?これ・・・食えるか?」
北斗が差し出したのは、ヨーグルトだった、直哉はスプーンなど使わずに一気に啜った、何日ぶりだろう胃に何か入って溜まった感じがするのは
それから北斗は自転車に直哉を乗せて、ジンの所へ連れて行ってくれた、そして自分はもう晩飯を済ませて何もないから、弟に何か食わせてやってくれと頼んだ
ボロボロの服に何日も風呂に入っていない、痩せ細って頬はこけ、目だけが大きくギラギラしている直哉を見て、ジンとその家族はこれは深刻な問題だと受け取った
そして初めて成宮家に児童虐待の疑いで、警察と福祉児童局が指導に入った
父が死んでから継母は父の財産を全部、かっさらって行った、自分は伴侶なんだから当然の事だとあの女は主張した
息子が三人もいるのに
無情にもその息子達には、借金まみれの、荒れ果てた土地だけが残された
..:。:.::.*゜:.
ある意味兄弟の中でも、北斗とアキがあれほど純粋に、人を愛せるようになったのは
ただ結婚することでお互いを利用するだけの、両親を見て育ってこなかったからかもしれない
正直に言えば北斗とアキが幸せそうで、楽しそうだと思ったこともある
心を許し合い、人を欺く必要なんか、まるでない相手と、過ごすのはどんな気分だろうと
しかしどれほど女の子を気に入っていようと、ある一瞬のきっかけでそれが出始めたら、一緒にいる事に嫌悪感を抱き
気づかいが出来ない罪悪感や、意地などがぐずぐず出てきて、だんだん全てがめんどくさくなり顔も見たくなくなる
完璧なカエル化現象だ、自分は結婚などに夢や希望を抱けない
いくら多くの女にモテる存在だとしても、一つも自慢する気持ちにはなれなかった
直哉は昇って来た一番星を見上げた
わかっている・・・悪いのは相手ではない
そして大きくため息をついた
俺が人を愛せないんだ・・・・・
..:。:.::.*゜:.