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紗理奈はソファーに座り、膝にノートパソコンをのせて、電子メールを読んでいた
紗理奈の心の師と仰ぐ山上春樹から、先日の馬主交流会の参加のお礼の手紙だった
やっぱり紗理奈はあの時途中で逃げ帰ろうと、思ったが最後までとどまって良かったと思った、そして山上のメールの内容は紗理奈を、驚かせるものだった
かねてから山上が豪語していた、「小説学校」をとうとう開校すると言うものだった
現代のアニメや漫画が遂行する日本で、テキスト(文字)がどんどん忘れ去られる中、小説の面白さをもっと若い世代に残したいという、山上の熱意は彼の運営する小説オンラインサロンが会員10万人を超えているのでもよくわかる
そしていよいよ渋谷の一等地に、小説専門学校を設立すると言うのだ
開校は来年の春、もうすでに入学志願者は沢山いるそうだ
山上は紗理奈の文字だけで、色、景色、はたまた匂いまで漂ってきそうな、その独自の文章力と作家としての表現力を大変高く評価してくれていて
来年春に開校する山上の小説学校の講師になって、欲しいと書いてあった
そして講師として引き受けてくれるのならば、正月前には東京にきて開校準備を手伝って、欲しいとも書いてあった
紗理奈はそのメールを読んで一瞬ためらい、そして心が躍った
小説講師としての自分・・・
新しい場所で新しい出発・・・
そして自分も多くの未来ある小説家の卵と、日々接していたら刺激されて、また書けるかもしれない・・・
しかし心に灯った希望の火はすぐにしぼんだ
いくら去勢を張っても、弱点と泣き所は人生において次から次へと、出て来るものなのね・・・・
私は小説を書けなくなったことを隠し、自分が処女であることを隠し、本当はそんなに知性があるわけでもなく、ただ優秀なAIと人より少し検索技術が、すぐれていることをひた隠す・・・・
SNSは見る専門、自分のことなど絶対載せない、派手にSNSに日常を投稿していた同じサロンの、作家が告訴された件もある・・・・
つぶやきサイトに編集や創作の愚痴を書いたり、正義ぶって政治的な発言をして書籍発刊が、お蔵入りした事例などはもう沢山聞いている
小説作家は夢を売る仕事・・・非現実な素晴らしい物語を創り出し、世の中に潤いをもたらす仕事・・・いわば裏方の仕事、イメージが大事
以前雑誌社のアンケートで「水谷紗理奈のイメージは?」と調査した結果
・人里離れた孤島の島で優雅に一人執筆している
・猫を10匹飼っている
・キツそう
・怒らせたらトリック殺人されそう
今までそのイメージを壊さないように必死にやってきた、今はそのイメージに縛られて墓穴を掘っている気がする
本当はそんなに強くも賢くもない、変なヘマばっかりやっている、10年前この島を出たばかりと少しも変わっていない、問題を山ほど抱えている行き遅れの末っ子ダメ紗理奈
結局本質は何も変わっていない
昨日の競馬場の主賓席で紗理奈は直哉を無視した、避けて、避けて、避けまくった
幸い彼は最初に一言声をかけただけで、終始じっと紗理奈を見つめてはいたけど、彼の視線をとことん無視する紗理奈に、それ以上は話しかけてこなかった
なんてこと!男娼だと思っていた人が、有名な馬の調教師なんて!!
あれから彼は何か表彰されていたわ、多くの人に話しかけられる彼を見ていたら、とても社会的信用のある人だと思った、たしかお兄さんが県議会議員だって言ってなかった?
・・・彼は・・・私にまだ処女か?と聞いたわ
聞いてどうするんだろう?
紗理奈は喉の突っ張りを取るように、ゴクンと唾を呑み込んだ、あれだけ無視したのだから彼ももうわかったはず、私はもう関係を持つつもりもないって
もしかしたらこのままずっと彼を避け続けていたら、自然とフェードアウトできるかもしれない
そうよ・・・あんな体験一度で十分・・・
紗理奈は身震いした、そして股間に手を当てた、あんな体験はもう自分の地味な人生では、もう経験出来ないだろう、一晩で4回も5回もイかされるなんて
彼のことを考えるとあの時の快感がよみがえり、脚を擦り合わせるだけで、水がほとばしるように快感が体中に広がる、信じられないまだ体が覚えている
驚くような体験だった、自分にあんなに性感帯があったなんて、彼の熱い大きな体が紗理奈を覆う、彼の声がエロティックな言葉を耳元でささやく
もし彼のあの巨大なモノで体を貫かれたら・・・奥まで満たされ、彼の鼓動を自分の子宮で感じることが出来たら・・
ブンブン首を振って慌てて服を脱ぎ!ザブンと湯船に入ってバシャバシャ顔を洗った
忘れるのよ紗理奈!
まるっきり!きれいさっぱり!もう忘れるのっ!
彼は男娼じゃないのよ!30歳の欲求不満の女が男を買ったなんて、あんな始まりで恋愛が上手く行くと思う?そして彼には大勢の女の匂いがしたわ
彼にはもう自分が欲求不満の処女だとバレている
いつ何時町中に言いふらされて、笑いものにされるかもしれない危険があるのに、彼と話すなんて絶対できない
ふと和樹と編集部員が紗理奈を陰で笑っていた場面を思い出す
ああ・・・もうっ!嫌!あれもこれも忘れたいのに!
人は裏切られた時に悔しいと感じる
そして、本当は自分を責める必要などまったく、ないのに裏切られたのはこちらに非があるからだと考えてしまう・・・
よしよし、可哀想に・・・辛かったね・・・
..:。:.::.*゜:.
その時また直哉の声を思い出してしまった
紗理奈を影で笑っていた和樹・・・男娼を偽って優しく慰めてくれた直哉・・・
ああっもう男性不信になりそうっ!
紗理奈は念入りにゴシゴシ身体を洗った、まるであるはずのない彼の残像を洗い落とすかのように
髪を乾かしてランジェリーには、お金をかけている紗理奈のお気に入りの、レースのショーツを履き
今夜は熱いので紫色のシルクのキャミソールの、ナイトドレスだけを素肌に身にまとった
高級なだけあってクリームのように、自分の体にフィットする、とても着心地が良くて嬉しくなった
ほら・・・今まで物欲で心は満たされていたじゃない
彼はこの島の有名な牧場主で、私はただの地味な作家、住む世界が違うわ
とにかく昨日の私のキッパリとした態度で、成宮直哉も分かってくれたはず、もう関わらない
いつものように籐椅子ラタンチェアに座って
夜風に当たろうと
裏のポーチのドアを開けたその瞬間―
紗理奈の甲高い悲鳴が闇夜を切り裂いた
そして次の瞬間バタンとドアを閉じて
背中でドアにもたれた
ハァハァ息を整え
一瞬魂が口から飛び出てしまったと思った
なぜならそこに成宮直哉が座っていたから