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2 きらめき
「美味しいかい?仔猫ちゃん。シャンパンもあるからね、たくさん食べて飲んでね」
「ふぁい。ありがとうございますひふみさん」
先に引き継ぎを済ませてしまう算段であったが、帰宅した途端ホストモードの一二三に迎え入れられ、あれよあれよという間に順番に風呂に突っ込まれ、夕飯を用意されてしまった。
出来立てオムライスの誘惑には勝てるわけもなく、独歩と陽葵はこうして食事の席についていた。
「一二三……悪いんだが、まだ仕事が残ってるから……」
ちらっと時計を見遣る。時刻は二十三時。
「酒はその後にしよう。陽葵、タクシー代は出すから少し付き合えるか?」
「大丈夫ですよ〜。なんなら歩きますし」
極上オムライスにご満悦の陽葵は、上機嫌に応える。
「それは駄目だ。ってかお前の家、ヨコハマだろ……」
「えー。タクシー幾らかかるかわからないですし、どっかで時間潰しますよー」
時間を潰す?こんな危険な街で?
女の子ひとりで夜の街に放り出せと言うのか?
とんでもない。そんなのは駄目だ。
「うちに泊まっていけばいいんじゃないかな?独歩君の後輩ちゃんなら、大歓迎さ。僕はリビングで寝るから、僕のベッドでゆっくり眠るといいよ」
うだうだと考え込んでいると、一二三がにこにこと口を開いた。
残念ながら、独歩君の部屋は入る隙間すらないからね。と、ついでに汚部屋の暴露までされてしまった。
「一二三……」
「ひふみさん……大丈夫なんですか?」
有難いお申し出だし、お二人のことは信用してますけど……ともごもごする陽葵に、一二三はウインクをした。
「心配いらないよ、陽葵ちゃん。大丈夫、だから」
少し困った様に微笑む。
恐らく、本心だろう。
(ジャケットを脱いでも、きっと同じことを言うんだろうな……)
「っ……はい!じゃあ決まり!」
なんとなくモヤついた気持ちを切り替えるために、独歩はパンっと手のひらを鳴らした。
「せんぱい……?」「独歩君……?」
訝しんだ二人の声が重なると、喉の奥がギュッと絞まるのを感じた。
「じゃあ、ベッドお借りしますね……」
一二三の部屋からおずおずと顔を出した陽葵は、一二三のスウェットを着ている。
「どぉーぞ!あは……ちょっちぶかぶかだね」
一方、その部屋の主は、独歩の部屋のドアから顔だけ覗かせている。風呂に入る時にジャケットを自室に置いてきてしまったようだ。
「寂しくなったら、俺っちの抱き枕、ぎゅってしていいかんね」
恐る恐る話し掛ける態度とは裏腹に、目尻を下げてとても優しく接している。
珍しい……というか、今までに見たことのない状況だ。
「あは。お借りしますね。おやすみなさい……」
ドアが静かに閉まると、一二三はソファにいる独歩の隣に腰掛けた。
「ふぅ」
「お疲れ。良かったのか?……てか、お前最初から泊らせるつもりだっただろ」
額を人差し指で小突くと、一二三はニヒヒと笑った。
「だってさぁ〜、こんな時間に帰せる訳ないじゃん?だったら、初めから帰らなくても良い様にしたげる方がいいじゃん」
クッションを抱いた一二三は、どことなく陽葵と似たような、キラキラとした瞳でこちらを見上げる。
「それにさ、なぁんか妹って感じで可愛く思えるんだよね。……まだ怖いけど」
俺っち、コクフク?できちゃうかもー!
上機嫌に缶ビールを開ける一二三を見て、また一層喉の奥が締まる気がした。