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ジェストの話しを聞いたナーシャは、結局は身持ちの悪い母から生まれたナーシャが悪いのだろうか?と感じてしまった。その気持ちに気付いたジェストが、引き続きナーシャの背中を擦りながら労るように言った。
「絶対にナーシャのせいではない。君の母ではあっても、物心付いたときには全くかかわらなかった人だ。そんなのもう他人だろう?君が気に病む必要はないし、オリジエル侯爵の思い込みは彼の資質の問題だ。昔ミゼラ様に、ナーシャの事を娘とは思えないとスティーブ様が言った時、ミゼラ様は侯爵家の行く末を諦めたって、父とカーゼル叔父に仰っていたそうだよ」
「お祖母様が?」
ナーシャは驚く。
そして、《《あの日の》》祖母の悲しそうなやるせなさそうな顔を思い出す。
貴族の在り方を祖母が教えていた時の事だ、ナーシャの質問に応えた時の祖母は、何と言っていただろうか?
『お父様もお兄様もお勉強しているのね』
『セシルも今ナーシャと同じ様に頑張ってるわ。でも⋯スティーブは⋯頑張っていた筈なのだけどね』
あれは、息子を諦めてしまった母親の、悲痛の叫びだったのだと、今更ながらにナーシャは理解した。
「でもセシル様の事までは諦めては駄目だと思ったミゼラ様は、手を打っていた。それがセシル様が侯爵を継承する際に、|子爵家と弁護士《我々》が介入する事だった」
「お兄様の為に?」
「そうだよ。ミゼラ様は前侯爵である夫の弟から、セシル様を守るつもりだった。スティーブ様は流される可能性があったからね。だが、同じ様な人物がもう一人、セシル様には執拗く付き纏っていたんだ」
「⋯それが私の実母のソフィアということね」
ナーシャは実の母が身持ちが悪いだけではなく、そんな狡猾な人物だった事を恐ろしく感じて、自分の中にもその血が流れているのだと思ったその時、ふとリリアの顔を見た。
目の前にいるリリアは、今ジェストの存在に怯えて震えてはいるけれど、先程までのリリアは、ナーシャの言葉を一つも聞き入れず傲慢だった。理解できないリリアのその言動や行動は、これまでナーシャが接して来なかったソフィアと同じなのだと、ナーシャは初めて実母の存在を実感した。
そしてナーシャは祖母に感謝する。彼女が育ててくれなければ、ナーシャもリリアの様になっていたのだ。
「何よ!」
ナーシャが見つめている事にリリアが気付き、眉間に皺を寄せて不快だと言わんばかりの顔をする。が、ジェストに睨まれて直ぐに俯いた。
「倒れたスティーブ様に満足したトーラス伯爵は、医師を呼んだあとソフィアを侯爵家に捨てて帰った。伯爵家を離縁されたソフィアは、侯爵家を乗っ取るつもりで、セシル様を自分のいいようにしていたよ。彼の奥方が自分の父に連絡して、ルオン公爵が知る事ができた。間一髪だったけどね」
「そうアリス様が⋯」
「家督を継ぐ前に正式にソフィアと誓約書でも結ばれていたら危なかったけど、それは取り敢えず止められたし、ソフィアとリリアはどちらも貴族籍から外されたから、二人は修道院に向かわせる事になったんだ。その途中で二人は逃げた。付き添っていた侍女に怪我を負わせてね。おい!」
「は、はい!」
「あの侍女はかなりの大怪我を負っていた。あの娘は男爵家の娘だと知っていただろう?平民が貴族に怪我を負わせたらどうなるかくらい知っていたはずだ」
「だって!あの女が私を馬鹿にしたのよ!たかが男爵家の娘が!この私に!」
「お前は!⋯もう何を言っても無駄か?」
「リリア」
「何よ!」
先程諭す事を諦めたナーシャだったが、彼女もソフィアに育てられなければ、こんな事にはなっていなかったのではないかと、同情心からナーシャは最後にわかってほしいと願って伝えた。
「人に怪我を負わせたら、それが態とじゃなくても謝罪は必要なの。態とだったら尚更ね。そんなつもりはなかったなんて、身分が違えば戯言にもならないのよ、極刑にだってなりかねない。それをどうかよく考えて」
ナーシャの言葉に、まだ何か文句を言おうとリリアは口を開きかけたが、ナーシャの真剣な目を見て何も言えず口を閉じた。
リリアの手は拳を握って、口を閉じた事で屈辱を感じたのか、震える体はジェストへの恐怖ではなくて、ナーシャに何も言えない自分に対してのように思えた。
そんなリリアを一瞥して、ジェストは護衛達に命じて、そのままリリアは当初の予定通り、修道院へと連れて行かれた。
ナーシャは、リリアを憐れに思った。
これからの彼女が、ソフィアではない他の誰かに、正しく導かれることを願うばかりだった。
コメント
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第32話、読み終えました…! ジェストがナーシャの背中を擦りながら「君のせいじゃない」って言ってくれる場面、本当にじんわり来ましたね。あの優しさが沁みます。 それに、ミゼラ様がスティーブ様を「諦めた」って知った時のナーシャの気づき、胸にグッときました。祖母の悲痛な叫びだったんだなって。 最後、ナーシャがリリアに「謝罪が必要」って真剣な目で伝えるシーン、彼女の成長を感じられて感動しました…!