テラーノベル
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突然、|ソフィア《母》がやってきた。 セシルはその時、妻のアリスといなくなったナーシャについて話をしていた。
「母上?突然どうされたのですか?」
侯爵家には確か母は入れなかったはずで、しかも何故母はセシルが別邸にいると知っていたのだろう?という疑問も湧く。セシルは結婚した時に母と会ったが、離れに住むことになったとは話していなかった。
「伯爵と離婚したの。生家は兄が継いでいるし、|ケイザル伯爵《父》の家は狭いから、此処に住んで《《あげてもいい》》と思ってね」
常識外れな事を言う母に、セシルは唖然として、母はこんなに変な人だったかと信じられない思いで、お茶を飲む彼女を見つめた。
すると母は「そうそう」と今思い出したと言うように、何かを言いかけた時、遠慮して席を外していたアリスが、慌てて応接室に入ってきた。
「あなた!大変!お義父様が倒れたそうよ!」
「えっ?」
セシルが驚いて立ち上がり、扉付近にいたアリスの方に体を向けると、背後から信じられない言葉が聞こえた。
「あーあ、私が話そうと思っていたのに。気の利かない嫁ね」
錆びついた歯車が上手く回らない機械の如く、ギギギと音がするようにセシルは振り返り、平然とお茶を飲んでいるソフィアを凝視した。すると彼女はセシルの視線に気付き、彼の顔が蒼白になっているのを見ると慌てて言い直した。
「ま、まぁ嫁は気が利かなくても大丈夫よ、私がフォローするから」
的外れの言い訳を吐くソフィアの言葉が、セシルの耳には上手く入っていかない。耳が拒否をするのだ。
“絶望”それを感じさせるには充分で、セシルは膝から頽れそうになっていた。それを止めたのは妻のアリスだ。
「あなた!何なさってるの?早くお義父様の所へ行かなければ。しっかりして!しっかりしなさい!セシル・オリジエル!」
アリスの言葉で我に返ったセシルは、急いで本邸へと向かった。その後ろをアリスも付いてくる。
スティーブの部屋には医師も呼ばれていて、丁度診察を終えた所だった。
「|先生《ドクター》」
「あぁ、良かった。ご家族が来られないと薬の説明が出来なくて、困っていたところです」
そう言って、スティーブの状態と薬の説明を受けるセシルとアリス。医師が帰ったあとセシルはふと、リリアは何処だ?と考えた。あの日から父に、部屋で謹慎を言い渡されて、リリアは学園にも通わせてもらっていないはずだ。部屋にいるならこの騒ぎに気付かないはずがない、リリアの部屋は父の部屋の近くにあるのだから。
「リリアは?」
後ろに控えていた家令にセシルが尋ねると、彼は言い淀んで、表情には焦りが浮かんでいる。
「何処だ?」
「それが⋯」
「呼んでこい!」
「その⋯本邸にはいらっしゃいません」
「は?謹慎中だっただろう?此処に居ないなら何処に居るんだ」
「別邸に⋯」
「うちには来てない、いやまさか」
セシルはアリスを見ると、アリスも信じられないというように頭を左右に振っていた。
「ソフィア様がいらっしゃっていて、リリア様が|別邸《そちら》に案内すると仰って、本邸は出られました」
家令の言葉にセシルは目を瞠った。
とにかく別邸に居るならば、とセシルが向かおうと廊下を歩いていた時、使用人達の声が耳に届く。
「ナーシャ様、ご結婚されたんですって」
「そうらしいわ、でも良かったわよね。いつもリリア様がローラン様との間も邪魔されていて、流石に気の毒だったわ。もし自分がって思ったら、ね」
居なくなったナーシャが、学園を知らぬ間に卒業して、オリジエル侯爵家から籍を抜き、ルオン公爵の養女になりそのままかつての婚約者のジェストと婚姻した事は、セシルも父のスティーブから聞かされた。聞いたときはなんて勝手な奴だと憤ったが、先程ソフィアが来るまで、アリスと話していたのは、この家でのナーシャの待遇についてだった。
アリスから自分も見て見ぬふりをしていたので同罪だが、この家の嫡男としてちゃんと考えて欲しいと懇願されていたのだ。
今までセシルに意見らしい意見などしたことがなかったアリスが、突然言い出したことに驚いたし怒りが湧いたが、彼女は立場上言えなかったと言った。そういえば、アリスとの婚約が決まった頃は祖母も存命で、ナーシャとアリスは仲良しとまではいかなくても、話はしていたように思う。
それがいつの間にか、その場所がリリアに変わっていた。その事をアリスに言われるまでセシルは気が付かなかった⋯。だがアリスに指摘された「本当に?」と。
メイドのお喋りで、アリスとの会話を思い出しながら別邸に入ると、居間で|ソフィアとリリア《二人》が寛いでいた。困ったように壁際には別邸の使用人達もいて、セシルは我が物顔でそこにいる二人に苛つく。
「何をされてるんですか!」
「あらっセシル、スティーブはどうだった?」
倒れた事を知っていても、別れた夫だから母にとっては関係ないと思う人物なのだろうと思ったが、それでもセシルの父なのだ。息子の気持ちを慮ってもいいじゃないかと叫びたくなる。
それに、母の前に座り済ました顔でお茶を飲むリリアにはもっと腹が立つ。
トーラス伯爵家でリリアがした事は、貴族云々というものではない、人として有り得ないとセシルは、その日からリリアには嫌悪感しか感じない。
あんなに可愛がっていた義妹だったが、もう可愛いと思える要素が何処にもなかった。
「リリア、お前は謹慎中だろう」
「でも、お父様が倒れたから無効でしょう?」
セシルは、拳を握りしめた。
コメント
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うわ、もうこのエピソード、重すぎて胸がぎゅってなった…。ソフィアが「住んであげてもいい」って軽く言うとことか、セシルの実感そっちのけで自分の話だけ進めてく感じ、本当にもう、読んでて息が詰まったよ。それにリリアも謹慎中なのに平気で別邸で寛いでるし…。それでいてナーシャが家を出た話がチラッと出てきて、セシルがやっと見えてきた家族の歪みに対して拳を握るシーン、すごく心に残った。暗いけど、ちゃんと向き合おうとしてるのが伝わってきて、続きが気になる…