テラーノベル
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パチッ、パチパチ……ッ!!
部屋の出入り口に焼夷弾を投げつけると、激しい火の粉と共に炎が舞い上がった。
炎は煙を立てて燃えており、完全に視界を遮ってくれている。
「普通ならこれで、通れないとは思うんだけど――」
そう零した瞬間、炎の中に人影が揺らめいた。
しかし――
「シルバー・ブレッド!!」
――間髪入れず、エミリアさんの攻撃魔法が飛んでいく。
それは炎の中の人影に当たり、そのまま元の部屋へと弾き飛ばした。
「……エミリアさん!? あんまり無茶をしないでください!!
ルーク、高級爆弾も投げちゃって!!」
「かしこまりました!!」
魔力切れのエミリアさんに注意をしつつ、ルークに攻撃をお願いする。
炎の向こうまでは距離があるから、私の腕力では投げても届かないのだ。
ルークが高級爆弾を隣の部屋へ大きく投げると、高級爆弾は焼夷弾の炎を通過するときに――
ドカアアアアンッ!!
――誘爆してしまった。
ついでにその爆発で、出入り口の一部が崩れ落ちた。
……さらには、焼夷弾の炎も吹き飛んで消えてしまった……。
「わわっ!? もう1回焼夷弾!!
――の前に、高級爆弾を投げておこうか!!」
近衛騎士は爆弾を警戒しているようで、炎が消えたタイミングでは、すぐに飛び込んでは来なかった。
それならもう一度怯ませておいて、その上で炎の壁を作り直すのが良いだろう。
「いきますっ!!」
ドカアアアアンッ!!
シューッ!! パチッ、パチパチ……!!
ルークが高級爆弾と焼夷弾を投げ終わると、出入り口には再び炎の壁が現れた。
……それにしてもこれ、凄い便利だね……。本当は建物を燃やすためのものなんだろうけど……。
ちなみに燃える力が強いのは、きっとS+級だからだろう。
そんな中、耳を澄ませてみれば、炎の向こうから――
「……炎の護りを張ります……!」
「……まず私たち三人が外に……!」
「……負傷者はまず回復を……!」
――何やら近衛騎士の話し声が聞こえてくる。
やはりそれなりに、ダメージと警戒心は与えられているようだ。
しかし相手は、精鋭の近衛騎士。
このまま爆弾での攻撃や酸欠狙いで追い詰めていくのも良いが、向こうに奥の手があったらとてもまずい。
私たちはまず、ここから逃げて生き延びなければいけないのだ。
「――それじゃ、そろそろ転送の魔法陣のところへ行こう!」
そう言いながら、ルークに新しい焼夷弾と高級爆弾を渡す。
ルークは出入り口に向かって焼夷弾を投げて、炎の壁を厚くした。
「私が後ろを護りますので、お二人は先に!!」
「うん! エミリアさん、もう少し頑張りましょう!!」
「はい……! 大丈夫です……!」
エミリアさんを先へと促しながら、私たちは走り始めた。
転送の魔法陣までは、もう少し――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「光の球……! 私たちを転送して!!」
魔法陣の中央まで辿り着き、三人集まったのを確認してから光の球に呼び掛ける。
アイテムに呼び掛けるなんて何だか恥ずかしいけど、今はそんなことを言っている場合ではない。
光の球は素直に私の呼び掛けに応じて、優しい光を発した。
それと同時に、魔法陣のいくつかのポイントが光り始める。
「こ、これで大丈夫……?」
「そうですね……、おそらくは。
起動までは1分といったところでしょうか……」
エミリアさんは魔法陣に広がる光の具合を見て、そう教えてくれた。
1分……。ここでの1分はとても大きい。……いや、1時間とか掛からないだけマシか。
もしそこまでの時間が掛かってしまうなら、近衛騎士たちとは最後まで戦わなければいけないだろうし……。
そんなことを考えていると、出入り口で燃えている炎の中から、1人の近衛騎士が飛び出してきた。
もう!? 早ッ!!
「アイナ様、ここは私が――」
「一人だけ残って足止めをする、とかは無しだからね?
そしたらエミリアさんを殺して、私も死ぬから」
「「え……?」」
こんなときにも関わらず、二人のきょとんとした顔を獲得してしまった。
私は『不老不死』で死ねないから、自分だけを人質にしたところで……ねぇ?
……いや、この言葉自体、そんなに深い意味があるわけでは無かったんだけど――
「――それより残りの高級爆弾をっ!!」
「あ! はいっ!!」
ドカアアアアンッ!!
ルークが手に持っていた高級爆弾を投げると、近衛騎士は上手いこと後ろに避けてくれた。
よしよし、これで時間稼ぎは大丈夫!
足元の魔法陣には全体的に光が宿って、静かな唸りを上げて周囲の埃を舞い上げている。
そろそろ起動する頃――
そう思った瞬間、私はふわっとした浮遊感と共に、暗闇の中に投げ出されていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ひゃっ!?」
突然の落下感と共に、私はどこかに放り出された。
すぐに起き上がって辺りを見ると、ルークとエミリアさんも近くで起き上がろうとしている。
まずは良し! ここで三人が散り散りになっていたら、それだけで悲惨な展開が待っていたのだ。
「アイナ様、エミリアさん、ご無事ですか!?
……ここは一体、どこでしょう?」
三人集まって、改めて周囲を確認してみる。
そこは、私には見覚えのある場所――
「……ここ、王都の公園……ですね……」
以前、テレーゼさんをあちこち追い掛けて、最後に辿り着いた公園。
彼女と話をした大きな木からは離れているけど、この辺りも確かに通った記憶がある。
夜空を見上げてみれば、綺麗な星々が――
……って、あれ?
「アイナさん、どうかしましたか?」
「い、いえ。何でも……。
……さて、ここからどうしましょう」
私が二人にそう聞いたとき――
ガラーン…… ガラララーン……
――夜中だというにも関わらず、どこかから大きな鐘の音が響いてきた。
「む……これは……?
この音は……緊急閉門!!」
「緊急閉門……?」
ルークの言葉に、私はそのままオウム返しをしてしまう。
「クレントスは夜間、すべての街門を閉めているので使う機会はありませんでしたが――
この王都は夜間でも人の出入りがあるため、街門の一部は開けられているのです。
今の鐘は、それの緊急閉門の合図になります」
「……タイミングを考えると、私たちを外に出さないため……だよね?」
「そう考えるのが自然です。
それに朝になったからといって、そのまま街門が開くとは限りません。
何せ、国王陛下が――」
……恐らくは死亡。そして、その王様の死に際の命令。
日中に門を閉ざすのは、人の流れや物の流通に影響はあるだろうが、大罪人を捕まえるためなら――
「暗闇の神殿からは何とか逃げてきたけど、王都からも……?
……そ、そうだよね。そりゃ、そうだよね……」
よくよく考えてみれば、王様の支配は王都全体に……そして、この国全体に及ぶ。
王都に戻ってきたからとは言っても、そこは引き続き危険地帯なのだ。
「……迷っている時間はありません。
アイナ様、王都から逃げましょう!!」
――やり場のない思いを抱えながら、私には頷くしか道はなかった。
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