☕真夜中の闖入者(ちんにゅうしゃ)
その時、背後で、扉が開く微かな音と、レザーブーツの床を捉える硬質な音がした。
「…誰だ」
低く、有無を言わさない声。心臓が凍り付いた。
振り返ることもできず、イリスは窓枠に手を置いたまま、硬直した。彼女の背筋に、冷たい汗が伝う。この世の終わりが来たような気がした。
「い、イリス・ヴェルナーであります!夜分に、ご迷惑をおかけしております!」
イリスは、反射的に最敬礼の姿勢を取った。
リヴァイが、部屋の電灯を点ける。パチッという音と共に、まばゆい光が部屋を満たし、イリスの顔を照らした。リヴァイは、眉間に深い皺を寄せ、警戒心と不快感を露わにしていた。その視線は、イリスが手に持っている**「布」**に向けられていた。
リヴァイ:「…こんな時間に、何をしていた。俺の許可なく、俺の執務室に入ることは、軍規違反と見なすが?」
「申し訳、ありません!兵長!しかし、これは…」
イリスは、言い訳を探した。書類を忘れた?いいや、すぐに嘘だと見抜かれる。
彼女の目に入ったのは、ハンジにもらった「完璧な紅茶の淹れ方」のメモだった。思わず、彼女はそのメモを握りしめた。
「これは、分隊長の**『研究データ整理の指示』による、『執務室の環境衛生の改善任務』**であります!」
イリスは、腹の底から声を絞り出した。彼女自身、何を言っているのか理解できなかったが、ハンジの**「確信犯的な教え」**を、そのまま使ったのだ。
リヴァイの眉間の皺が、さらに深くなった。明らかに、イリスの言葉は、彼の潔癖症の琴線に触れたようだった。
リヴァイ:「環境衛生の改善任務…?ふざけるな。この部屋の衛生管理に、誰の許可が必要だと思っている?」
「は…!もちろんです!兵長の許可をいただければ…!」
リヴァイは、一歩近づいた。イリスの心臓は、喉から飛び出しそうだった。
リヴァイ:「お前…まさか、俺の**『窓枠』**を触ったのか」
その声には、怒りだけでなく、**「聖域を侵された者」**の冷たい感情が込められていた。
イリスは、意を決して、胸に抱いていたハンジのメモを差し出した。
「兵長!私は、**『任務の遂行』**のため、最高の衛生状態を、兵長に提供したく…!その、このメモは…!」
リヴァイは、イリスの手から、その几帳面な字で書かれた「完璧な紅茶の淹れ方」のメモを、まるでゴミでも見るかのように、引き抜いた。
彼の目が、メモの冒頭を捉えた瞬間、その瞳に見慣れない感情が宿った。
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