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凪side
その翌日も校舎裏で、先輩は短い歌を口ずさんでいた。
凪は壁に背を預けて、いつものようにただ黙って聴いている。
音のひとつひとつが胸の奥に響いて、息をするのも忘れるほど。
——どうして、こんなに心が揺さぶられるんだろう。
ただ歌っているだけなのに、どうして涙が出そうになるんだろう。
歌い終えた先輩が小さく息を吐いた。
「……今日はここまで」
「はい……」
凪は思わず、言葉を飲み込む。
本当は「もっと聴きたい」って言いたかった。
でも、それ以上に、胸の奥で抑えられない気持ちが膨らんでいく。
——先輩の声を、誰にも渡したくない。
——先輩が笑う顔を、ずっと自分だけに見せてほしい。
自分でも驚くほど強い独占欲に、凪ははっと息を呑んだ。
「……どうかした?」
怪訝そうに首をかしげる先輩。
慌てて笑顔を作り、凪は頭を振った。
「なんでもないです。ただ……」
一瞬、言葉が喉で詰まる。
でも誤魔化すように続けた。
「……先輩の歌、本当に大好きです」
そう口にしたとき、凪はやっと理解した。
これは憧れなんかじゃない。
まっすぐでどうしようもない——恋だ、と。