テラーノベル
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独白
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暑く額に汗の流れる、そんな季節。ステージにはタンッという軽快な音が響く。音楽に乗せ、自らを作り上げていく。彼が目指しているのはそんな作品であり芸術。まるで芸術は爆発だとも言うような大雑把な芸。見ていて何が面白いのかと退屈してしまう。だが彼は、確かにそこに楽しさを見出していた。
息が切れる。と、ここでスポットライトが切れる。ウーっという機械音だけが鳴り響き、そこは閉ざされてしまった。と同時にひとり、またひとりと手を鳴らす。それはやがてこの場を包む。彼は完璧なフィナーレへ、自らを繋ぎ止めることができたのだ。
ここは夢を与えるのとは反対の場所。皆思い思いのことを口にする。その言葉がやがて中に浮かび、この場を支配して行きそうだった。だがその色は希望の黄色。なるほど、皆、このフィナーレを自分自身の体で運びきれたこと、とても嬉しく思っているのだ。
でも、まだだ。俺が目指すべきはここじゃない。このさらに上、最上階に位置するところ。その勲章が欲しいのだ。その脆弱な体には合わない、大きな夢。それを虚構という。その虚構を持っているヤツらはこの世にごまんといる。その中、矮小な奴らを蹴飛ばし、どこまで高みを目指せるか、それが俺に化された使命なのである。
恭しさのある舞台裏を後に、俺は小さな箱庭で練習を続ける。自らの命をじわじわと削るような、そんな息苦しさが頭を襲う。まだだ。俺の実力はこんなもんじゃない。そういい、またステップを踏みはじめる。もっと、きっと、上手くいくはず
ここまで長かった。表では輝いて見えた努力は、自らを黒く染め上げる。たくさんの人を踏み台にして、今の自分がある。
今、あのころの夢を叶えた。自分が主人公となり、楽しそうに舞い上がる。これまでにない達成感。この四半世紀の間、俺は沢山のことを成し遂げたはずだ。
楽しそうにステップを踏み、大雑把な演技はそのままに、でも前とは明らかに違う。感情が乗っている。今その時の感情論理で暴れ狂う。その表情は誰が見ても、幸せそうだと口を揃えるだろう。
楽しい、楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい。
頭がおかしくなってしまったのか、今の俺はそんなことしか考えることができない。
このまま、終わりたくない。その思いとは裏腹に、どんどんと終わりの時間は近づいてきた。あぁ、終わってしまうのだ。あのころ削ってしまった命が、この後尽きるのかもしれない。そんなことでさえどうでも良かった。俺を見てくれるなら。楽しく、自分を自嘲す る時間さえも忘れるぐらい。回って、回って回り続けた。
そこで、ピタッと音楽が止む。最後、俺はエトワールをつかみきることができたのだろうか。それは観客にしか分からない。あの時とおなじ、あの虚しい音がなり舞台は幕を下ろす。あの時とは違い、称賛の音は鳴り響かない。ついに終わってしまった。俺の思いはここで途切れる。これで俺は、成仏できる。
END
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