テラーノベル
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ここ数日、水とゼリーのみで生きていた為、肌はガサガサ、髪はパサパサになってしまった。
化粧はのらないし、髪の毛も纏まらない。
「会社に行く前にコンビニに寄ってこ」
ハリを失った髪を無理矢理束ね、唯一口に入れることの出来た固形物を求め、家を出た。
太陽の日差しを避ける様に、日影を探しながら歩き、会社から1番近いコンビ二へ入店。
心が元気だった頃は、平気で完食出来ていた大きめのゼリーには目もくれず、棚に陳列されていたゼリーの中で最も小さいものを手に取り、レジへ向かった。
無事にゼリーを購入し、コンビニを出た時、
「ふぅ」
小さい息が漏れた。
いつまで私はこんな状態なのだろう。
あとどれくらいで元気を取り戻せるのだろう。
何をどう頑張れば復活出来るのだろう。
やるせない。
やるせないけれど、仕事に行く。
やるせないから、仕事に行く。
やるせなさを、忘れたいから。
会社に着き、ゼリーが入ったビニール袋を肘に下げながら、鞄の中からセキュルティカードを取り出し、ドアの鍵を開錠すると、デスクには行かずにゼリーを冷蔵庫にしまうべく、給湯室へ。
給湯室の出入り口に近づくと、複数の女性社員の声が聞こえてきた。
何となく混ざって喋る気になれなくて、『ゼリーは後で片そう』とデスクに引き返そうとした時、
「今日は冷凍庫にアイスが入ってるんだけど」
先輩社員の声がした。
「それ、課長ですよ。課長が入れてるの、見ましたもん」
後輩の女の子がそれに応える。
【課長】というワードに思わず足が止まり、彼女たちの会話に聞き耳を立てた。
「昨日のゼリー、お得意様にもらったわけじゃなくて、課長の自腹っぽくない? だっておかしいじゃん。去年、ゼリーとかくれるお得意様なんかいた? 課長、異動してきたばっかりだから新規開拓なんてまだ出来てないはずでしょ? 前の課長のお得意様を引き継いだだけでしょ? お得意様が前の課長にはくれなかったものを、今の課長にはくれるなんてことある? どんだけ前の課長が嫌われてたんだって話じゃん」
「私思うんですけど、課長は折角異動してきたのに、こっちの支店でまで奥さんの噂で変な目で見られたくないから、私たちに媚び売って点数稼ぎがしたいのかなって」
「そんな気するねー。ちっさい男だねー、課長」
「けなしておいて、普通に食べるくせに」
「アイスに罪はないもの。腐らせてももったいないでしょ」
「アイスには賞味期限ありませんから」
「そうだったー」
『あはははー』と笑う女性社員たちの声に、悔しくて奥歯を噛みしめた。
こんな時、少女漫画だったら『課長はそんな人じゃない‼』とか何とか言いながら、女性社員の輪の中に飛び込んで行って、それをちょうど良く偶然に課長が目撃とかしてくれちゃっていて、そんな健気でお節介な私を意識してくれちゃう様な流れになるのだろう。
ただ、少女漫画は何だかんだでお互いに好意を持っていることが読者に丸分かりだからこそ、すんなり受け入れられている展開であって、課長にバッサリ振られている私が実際にそんなことをしようものなら、余計なことをする出しゃばり女でしかない。更に、私のその振る舞いを課長が目にするなど、都合良く起こるわけがない。
そんな私が出来ることは、デスクに行き、パソコンを立ち上げ、
『冷凍庫に入っているアイスの差し入れは、課長がしてくれたものですよね? 悪い噂が立ち始めているので、控えた方が良いと思います』
課長にメールを打ち、情報をリークすることくらいだった。
『アイスを冷凍庫に入れたのは私ですが、差し入れ自体はお得意様ですよ』
すぐに課長からの返信が来た。
差し入れはあくまでもお得意様からだと主張する課長。
2日連続でお得意様から差し入れが入ったことなど、入社して1度もない。というか、営業さんが出張先からお土産を買ってきてくれることはちょくちょくあれど、と言っても1ヶ月に1回くらいだが、お得意様からの差し入れなんて、お中元やお歳暮を抜かせば1年に1回あるかないかだ。
さすがに怪しい。
『お得意様ってどちらの会社ですか? お返しをしなければならないので、教えてください』
またも質問メールを送信。
『お礼は私がしておきますので、気にしなくて大丈夫ですよ』
が、課長はサラッと交わした返信をしてきた。
隠す必要もない、取るに足らない質問に答えない課長。
きっと、嘘を吐いているんだろうなと思った。
しかし、そんなことはどうでも良い。私は課長の嘘を暴きたいたいわけではない。課長に変な噂が立たない様にしたいだけだ。
『失礼を承知の上で報告させて頂きます。課長の行為は、みんなには『奥さんの噂を気にして部下に諂っている』様に見えています。ですので今後、お得意様に何か頂いたとしてもご自宅に持ち帰ってください』
真偽は問わず、自分の要望だけを打ち込み、課長に再度メール。
『持って帰っても自分ひとりでは食べきれませんよ。それに、周りにどう思われていても別に気になりませんから』
課長から、『私の意見は聞き入れません』という内容のメールが届いた。
やはり、振った女からのお節介はいい迷惑でしかないらしい。
そうだ。私は課長に振られたんだ。だから、課長がみんなにどう思われようが知ったことではないんだ。
だけど、どうしてもまだ好きなんだ。
しっかり振られた。今だって、私の思いは汲んでもらえなかった。
なのに何で諦められないのだろう。
苦しい。悲しい。辛い。
胃がきゅうっと絞まる感覚がした。
今日のお昼は、朝買ったゼリーさえ食べられなかった。
食べることを拒否した身体とういものは、【考える】という行動を嫌うらしい。
どうのもこうにも集中出来ない脳みそを騙し騙し働かせ、何とか就業時間を迎えた。
残業などとても出来ないので、さっさとパソコンの電源を落として帰ろうとした時、メール受信の通知が来た。
送り主は課長。メールを開くと、
『アイス、食べなかったんですか?』
と、帰り際の人間を引き止めるには迷惑でしかない内容が書かれていた。
『はい』
2文字だけのメールを返す。
『食欲がない』と正直に言えば、優しい課長は心配してくれるだろう。そんな優しさに触れてしまったら、どんどん課長を好きになってしまう。振られているというのに。
そんなの辛すぎる。
『遠慮しないで食べてください』
会話をぶった切る様な私の返信に、それでも返事をくれる課長。そんな課長に、
『課長が差し入れするのをやめてくれたら食べます』
と、課長にとっては、私がアイスを食べようが食べまいが正味どうでも良いだろうに、変な交換条件を付けたメールを返した。
だって、どうしても課長にまた変な噂が流れるのが嫌だったから。
『ですから、お得意様からの頂き物なんですって』
返ってきた課長のメールを見て、溜息が出た。
やっぱり私の気持ちは課長には届かない。
コメント
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読了しました……🥀 主人公の「やるせないから仕事に行く」って言葉、すごく刺さりました。消化できない感情を抱えたまま日常を回すしかない、あの感じ、分かる気がします。 女性社員たちの悪口を聞いて、直接飛び込めずにメールで密告する選択も、振られた立場だからこそのリアルな線引きで切なかったです。 それでも課長の優しさに触れたくないのに、メールを返してしまうのも、好きだからこそだなって。 「やっぱり私の気持ちは届かない」で終わる余韻、重くて苦しいけど、その描き方がとても丁寧で、ちゃんと作品として好きだと思いました🤍