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過去編.1 潮風に溶けた約束
omr side
潮風が心地よい午後だった。
あの日、僕たちはオフの日にふたりで海へ行った。理由なんて特になかった。
ただ、涼ちゃんが「海が見たい」って言ったからだ。
車で走りながら、窓から入ってくる風が涼ちゃんの金髪を揺らしていた。
信号で止まるたび、その横顔を見てしまう自分が少し恥ずかしかった。
海辺に着くと、砂浜に座って並んだ。
潮騒の音だけが耳に入ってくる。
僕は無言のまま波を見つめていたけど、涼ちゃんがふいに口を開いた。
「元貴、知ってる?」
「何が?」
「海の向こうには、死者の世界があるんだってさ。」
涼ちゃんの声は穏やかで、まるで天気の話でもするような口調だった。
でも僕は少しだけ胸が詰まった。
「死者の世界…?」
「うん。向こう側は、生きてる人間には行けない場所なんだって。」
「……なんでそんなこと言うの?」
「んー、なんとなく思っただけだよ。」
涼ちゃんはそう言って、笑った。
金髪が陽射しに透けて、少し眩しかった。
涼ちゃんは死とか終わりの話をするときでも、不思議と怖がらせるような言い方はしない。
ただ、どこか優しい顔をして話す。
その優しさが、逆に僕を少し不安にさせることがあった。
「死者の世界か……涼ちゃんは、そっちに行きたいの?」
「いやだよ。まだ行きたくない。」
すぐに返ってきた言葉に、少し安心した。
「元貴とまだ一緒にいたいし。」
そう言って笑う涼ちゃんを見て、胸の奥がぎゅっとなった。
「じゃあ、ずっと一緒にいようね。」
「うん。ずっと一緒にいよう。」
波がさらっていく足跡を眺めながら、僕たちはただそう言い合った。
潮風の匂い。
涼ちゃんの横顔。
海の向こうに死者の世界があるなんて、そのときはただの言い伝えみたいにしか思えなかった。
でも今思えば、あのときの涼ちゃんの瞳には、僕が知らない遠い場所を少しだけ見ていたのかもしれない。
「ねぇ 、涼ちゃん。」
「ん?」
「俺、涼ちゃんのいない世界なんて考えられないよ。」
「バカだなぁ。僕もだよ。」
笑いながら、涼ちゃんが僕の手を握った。
少し冷たいその手の感触は、今でも忘れられない。
あの日、確かに言ったんだ。
「ずっと一緒にいよう」って。
潮風に紛れて消えたその言葉は、今もずっと僕の胸の奥で響いている。
そして、涼ちゃんの笑顔と一緒に、あの海辺の記憶は色褪せずに残っているんだ。
過去編です
この後どーしよ