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冬の風が街を冷たく包むころ。Ifの部屋は、いつもより少しだけあたたかかった。
その理由は、ソファで毛布にくるまって眠っている初兎――と、その肩にそっと寄りかかっているIfだった。
「……起きてるんやろ」
「……バレた?」
「いつもより静かすぎる初兎は、だいたい嘘や」
初兎は苦笑いしながら、少しだけ体を起こした。
毛布がずれて、ふたりの間に小さな隙間ができる。
それが寂しくて、Ifはそっと手を伸ばす。
指先が重なって、またぬくもりが戻ってきた。
「……ねぇ、まろちゃん」
「ん?」
「冬の花ってさ、あったかい色が多いよね。真っ赤だったり、白だったり」
「寒い季節ほど、あたたかさが必要やからな。見てるだけで、ちょっと元気出るやろ」
初兎は嬉しそうに笑って、テーブルに飾られたポインセチアを見つめた。
クリスマスが近づく季節、真っ赤な葉がふたりの冬を彩っている。
「この花、もしかして……今日、僕のために?」
Ifは頷いた。
「花言葉は、『祝福』『幸運を祈る』。付き合って初めての冬やし、記念に」
「……ずるい。そんなの、好きが増えるだけやん」
「じゃあ、もっと増やしてええ?」
Ifは、そっと初兎の手を握ったまま、もう片手で小さな椿の花びらを見せた。
「椿はな、『控えめな優しさ』って意味があるんや。初兎みたいな人に、ぴったりやと思って」
初兎はそれを受け取って、静かに胸に当てた。
「僕も贈りたいな。まろちゃんに、あったかい気持ち」
そう言って、毛布をIfの肩にふわっと掛け直す。
そして、そっと額にキスを落とした。
「これで、今年の冬はぬくもり満点。ね?」
窓の外では、粉雪が舞い始めていた。
けれど、ふたりの部屋には灯るような赤が咲いていた。
寒さなんて、もう怖くなかった。