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藍 羅 . 🎧🌿
マグネット
53
第一話 知らない人
最初の返信から、数分が経っていた。
彼女は何度も画面を見ていた。
別に、返事を待っているわけじゃない。
そう思いながらも、
通知が来るたびに画面を確認してしまう。
やがて、通知が一つ届いた。
『返信ありがとう』
短い文章だった。
それだけなのに、なんとなく返したくなる。
『こちらこそ』
送ってから、少し考える。
これで終わりかもしれない。
ネットでのやり取りなんて、そんなものだ。
一度話して、
そのまま二度と話さなくなることも珍しくない。
だから、特に気にしない。
そう思っていた。
数秒後。
『こういうサイト、よく見る?』
また届いた。
『たまに』
『俺も』
短いやり取り。
内容だって、大したものじゃない。
好きな音楽の話。
学校の話。
最近あった、どうでもいい出来事。
そんな話を少しずつ続けた。
相手のプロフィールには、
ネット上で使っている名前が表示されている。
それが本当の名前なのかどうかなんて、分からない。
もちろん、自分の名前も本当のものではない。
だから、互いに深く踏み込むことはなかった。
『何歳?』
不意に聞かれて、彼女は少し迷った。
年齢くらいなら、別にいいか。
そう思って答える。
『高校生』
『俺も』
『同じなんだ』
『うん』
そこから、少しだけ話が弾んだ。
学校のこと。
勉強のこと。
先生のこと。
友達のこと。
誰かに話すほどでもない、小さな愚痴。
『今日、めっちゃ疲れた』
『何かあった?』
『特にない(笑)』
『じゃあなんで疲れたの(笑)』
『学校っているだけで疲れない?』
『分かる』
画面の向こうで、相手も笑っている気がした。
不思議だった。
まだ会ったこともない。
顔も知らない。
それなのに、話していると変に気を使わなかった。
しばらくして、相手からメッセージが届く。
『そろそろ寝る?』
時計を見る。
思っていたより時間が経っていた。
『うん、明日学校あるし』
『だよね』
『また話す?』
送ったあと、彼女は少しだけ後悔した。
自分から誘うなんて、少し変だったかもしれない。
でも、すぐに返事が来た。
『話したい』
その四文字を見て、彼女は少し笑った。
『じゃあ、また明日』
『うん。また明日』
画面を閉じる。
部屋が静かになる。
今日初めて話した相手。
たった数時間、文字を交わしただけ。
それなのに、なぜか少しだけ気になっていた。
翌朝。
目を覚まして、学校へ行く。
いつもと変わらない一日。
授業を受けて、友達と話して、帰宅する。
そして夜。
昨日と同じ時間に、サイトを開いた。
まだ来ていない。
少しだけ待つ。
すると――
通知が届いた。
『今日もいる?』
彼女は画面を見て、少し笑った。
『いるよ』
それから二人は、昨日より長く話した。
まだ知らないことばかりだった。
相手の本当の名前も。
どんな顔をしているのかも。
どんな毎日を過ごしてきたのかも。
それでも、その夜の二人には、それで十分だった。
コメント
4件

本当ですか! なら良かったです! えー!?まじですか! なら良かったですー! えー!優しすぎますよー! そんなふうに言ってくださってありがとうございます! そうなんですよねー! はい!楽しみにしててください!
うわあ……なんかすごく柔らかい。知らない人と話すときの、あの「気まずくないけど距離もまだある」感じが、すごく丁寧に描かれてて、読んでて胸がぎゅっとなりました。毎日が同じで、でもその中で誰かと夜に話せるだけで世界がちょっとだけ変わる感じ、すごくわかります。まだ会ったことない人の言葉を待つ夜、いいなあ…。続き、すごく気になります。