テラーノベル
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いくら声をかけても、磔にされた理紗は目を覚ましそうにない。
「ご挨拶させてください。 私はこの日継高校で宗教教育の外部指導員をしております、ガブリイル・グロリアス・アナ・イコン・ナターシャ・ラブレス・スノーホワイトと申します。 本当はもっと長いのですよ? ですが、それでは呼び辛いでしょうから私をお呼びいただく際には、こうお呼びください……」
シスターが自身の拳骨を掴み込んで祈りのポーズを取ると、その指間から車の高出力灯みたいな強い光が漏れ出し、直視のできない目眩しを起こした。
光の出力が弱まった後、シスターの顔には青白い聖母の彫刻みたいな石仮面が張り付いていた。頭巾の上には錆びた青銅色をした茨の冠。
それらはまさに、彼女が仮面持ちであることを示す明確な証拠だった。
「私は『少数派』のマリアンヌ……。 是非、マリアという愛称でお呼びください」
「テメェ理紗に何をした! 何が目的だ!」
「リサちゃんには少々眠っていただいております。 私は目的はひとつ、貴方が選ばれし者なのかどうかを判別しに来たのですよ」
「なに……!?」
マリアは首から提げた十字のネックレスに手を重ねて語る。
「ロビンソンはご存知ですね? 怪血の権能使いたる彼女は貴方の監視役として送り込まれました。 そして『支配者』。 私たちの組織から追放者されたあの二重人格者と接触しましたね? 本来の狙いですと、この二人の接触を介して貴方の『特例』の力、仮面なき権能の真価を見極めるつもりだったのですが……。 神無月煌さん、貴方は人を丸め込んでしまうのがお上手な様ですね。 報告役のはずのロビンソンからは一向に有用な情報があがってきませんでした……」
どうやら野崎はオレが不利にならないように、組織への報告を制限してくれていたらしい。
自分のことをよくも知らない奴らに筒抜けってのは気持ちが悪いもんだから、それはとても有り難い。
「ロビンソンが虚偽の報告をしているのか、それとも本当に貴方には『特例』と呼ばれるほどの力のない、運が良いだけのどこにでもいる普通の学生なのか。 その真偽を知るため、私は第二の監視役として……、いいえ、審判役として遣わされたのです」
「たったオレ一人に何人も使って、『少数派』にはヒマな奴しかいねえのかよ?」
「ふふふ、そうかもしれませんね。 私たちの活動は欲求が起源ですから、欲求の衝動がない時には無気力で暇そうにしている非社会的人間も多いですからね」
「自虐なんて聞きたかねえよ。 やっぱオレがこの学校に転入したのは、お前らの圧力がかかったからか?」
「その通りです。 校長先生によるアトランダムなくじ引きの結果でも、将来有望な成績順による区別的転入でもありません。 『少数派』が貴方を監視するため、権力を利用して目下に置くよう調整したのです。 貴方はそれだけ、あの方に一目置かれているのですよ。 これはとても光栄なこと……、誇って然るべきです」
極黒のフルフェイスの男、EXE。
あいつはどうしてオレに執着するんだ?監視役までつけて、なんでオレの動向を追跡するみたいなことを……
「しかし困りました、貴方は中々尻尾をださない。 『少数派』には、あの方には計画がある。 時間は有限。 ですから、潜伏して監視をし続けるはずだった私を使って直接、貴方の審判をしなければならなくなりました」
「なんなんだ、さっきから言ってるその審判ってのは!」
「よくお聞きくださいね。 私の権能は、人間が関係を接続する上で最も強力な縁……、愛情の権能。 能力の名は『実像崇拝』。 私の身体に触れたお相手に愛を芽生えさせる幸福な権能、なのですよ」
「……愛を、芽生えさせる?」
「ええ、愛とは互いを想う無償の心。 愛が芽生えた方は私を信頼し、攻撃的な行動ができなくなります。 更に愛が深まれば、私の言の葉なら全て信用してしまえるほどの効力をもたらします。 芽生える愛の強さ、その形は私の自由自在。 隣人愛から家族愛まで調整可能なのですよ。 ふふ、愛の形は無限大ですから……♡」
接触型の洗脳タイプ……!
先日のオカ研で野崎が定義していた権能分類の中でも、トップクラスに凶悪なヤツじゃねえか……!
型もタイプもディオの『悲劇の誕生』と同じだが、あいつのは敗役を与える権能。こいつのは愛を芽生えさせる権能。外からと内からの洗脳じゃあ、全くと言っていいほど対策が変わってくる。
ディオの場合、観客役という敗役を与えられた人間は効力が切れるまでその役を突き通す操り人形になっていた。
でも恐らく、マリアが言う愛ってのはそうじゃない。性質が違う。外部命令じゃなく、自分の心からの命令ってのは応用が効くからだ。
愛ゆえにマリアを信用して、常に何でも言うことを聞き、マリアの邪魔にならないよう自律して行動を取る、操り糸のない忠誠ロボットにされちまうってことだからな……。その点、ディオの奴より厄介かもしれない。
……待てよ?
まさか……、理紗が最近、急に外に出るようになった理由って……!
「どうして私が自身の能力を喋ってしまうのか。 その理由、もうお気付きでしょう? 貴方の愛しの妹御は、既に私のお友達になっているのですよ」
こいつが……!
理紗の言っていた友達の正体なのか……!
「テメェ……! 理紗を権能で操って信用させて……、友達って席に堂々と居座りやがったな !! どうして直接オレを狙わねえんだ!? 『特例』を試してえってんなら、直接オレに『実像崇拝』を使やぁ良かったじゃねえか!!」
「逃げ道をなくすために、ですよ。 大切な存在の首に刃物をあてられては、愛で動き、愛に生きる人間は自由に身動きが取れなくなる。 愛の利用方、ですよ♡」
「卑怯者が……!」
やっぱり、おかしかったんだ。
あの引きこもりの理紗が当然学校に行くなんて。一瞬で友達も作って、しかも次はお泊まりなんて。
「憤怒、していらっしゃいますね」
「当然だろ。 で、お前はこっからどうする気だよ? 初めてだぜ、手前の権能を最初っから全部喋ってくれるような奴は。 お前ら『少数派』ってのはどうも、ドイツもコイツも自信満々で自慢したがりらしいな? 情報開示するだけして、実は今さら後悔しちまってんじゃねえのか? 触れた相手にしか発動しないなんて条件を教えられて、オレが自分から近づきに行くとでも思ってんのかよ?」
「いいえ、そのような事は考えていませんよ。 それに、私の権能が知られてしまったところで計画に支障はございませんから。 聞いたことはありませんか? 苦悩に苦悩を重ね、欲求に欲求を束ね、憎しみで憎しみを飲み込んだ一握りの者にのみ許された秘奥の能力。 仮面の裏面、顕現を!」
「顕現!? まさか、お前も……!」
石仮面の上からでも分かるニヤリ顔で、マリアは胸に提げたロザリオを、今度は逆さまにして短剣みたいに握った。
カトリックとプロテスタントの違いも分からないコテコテ日本人のオレにだって、それが何を意味するかくらい分かる。
それは……、神に仇なす逆十字。
「 人死にを恐れる必要などありません
人殺しを戸惑う必要などありません
私たちが死にたくないと懇願する
その神様すらも人殺しなのですから
信心深き愚かなる君よ
祈りを捧げ献身に聖歌を歌われよ
さもなくば彼はただ悪戯に
汝らの頭蓋に聖堂の天井を下さん
『最悪の奇跡』 」
マリアの石仮面、目蓋を下ろした青銅の聖母から血涙が流れる。
直後、修道服の下腹部……、ちょうど子宮の位置にジュクジュクと血管を脈動させる目玉が開眼した。
「うふふ……。 まるで悪魔を見るような目……、言い当てましょう。 畏怖、ですね?」
恐れ、だけじゃない。
本来聖なる立場にあるはずの修道女が、グロく邪なものをその体に抱えている不和の姿に、背徳感に似た気色悪さが胃の中を跳ね回っている……。
「私の『SL』は『窓』を開く顕現。 現実世界に自在に穴をあけて、私の仮面が創った異世界を繋げる。彼岸と此岸を監視し、行き交うこともできる『窓』を作る能力です。 貴方には……、この『窓』を通り、異世界に旅立っていただきます。 もしも異世界から生きて現実に帰ってくることができましたら、貴方の力を認めましょう。 この苦難こそが審判……。 『少数派』にとっての貴方の存在意義を示す場、最終試験会場。 ですよ♡」
274
睡蓮
606
#異能力バトル
名無の男2
382
水瀬葵
312
コメント
1件
おお、第110話! マリアの能力「ラブシミュレーション」が明らかになって、理紗が操られてたって真相にゾッとしたわ…。接触型の洗脳で、しかも顕現まで持ってるってヤバすぎる。シスターの皮被った悪魔って感じでキャラの立たせ方も上手いなあ。家族を人質に取る卑怯なやり口に、主人公の怒りがこっちにも伝わってきた。ロビンソンが報告抑えてくれてたのもいい味方だね。続きが気になる展開すぎる🔥