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ーどうかあなたが私を忘れてくれますようにー
何故行ってしまうんだ
何故忘れろと言うんだ
君は…一体誰なんだ?
アラームの音ともに月宮 晴は目を覚ました。
また同じ夢……知らない少女が出てくる夢を見た。最初は何度も繰り返される同じ夢に困惑することもあったがもう慣れてしまった。
一人暮らしのため家中はしんとしている。早く家を出なければ。俺は急いで支度をして学校に向かった。
今日から進級でクラス替え。昔のようにワクワクする気持ちも無くなってしまったが嫌いというわけではない。
学校に着くと、校門前に大きく咲いてる桜が嫌というほどもう春なんだと教えてくる。俺は春はあまり好きではない。名前が”はる”なのに?とよく言われるが、名前と好き嫌いは関係ない。掲示板に貼ってある新しいクラスの名簿から自分の名前を探す。
「よっ、晴」
後ろから思いっきり背中を叩かれた。こんなことをするのはアイツしかいない。
「蓮、びっくりするからそれやめろっていつも言ってるだろ…」
栗花落 蓮。数少ない俺が心を許せる親友。自他共認めるほど顔が良くてモテるが、本人はモテるのが悩みらしい。なんとも羨ましい悩みだ。
「すまんすまん。そうだ、クラス見たか?俺とお前はE組。また一緒だよ」
「まだ見てる途中だよネタバレすんな」
俺は蓮の背中をバシッと軽く叩いてやった。さっきの仕返しだ。
「そういや少し疲れてるように見えるけどもしかしてまた?」
俺は頷いた。蓮にはあの夢のことを言ってある。自分では気づかなかったがどうやら俺は疲れているみたいだ。
教室に入るとやけに騒がしかった。近くにいた奴に聞くと転校生が来る、と。うちの学校には転校生なんて滅多に来ないのでこの状況にも納得がいく。チャイムが鳴り、その噂の転校生が来た。
でもその瞬間俺は息ができなかった。
「では水瀬さん名前と一言をお願いします」
「はい。はじめまして、水瀬 澪です。よろしくお願いします」
教室内に拍手が響き渡る。でも俺は拍手をする暇なんてなかった。
頭が痛い。割れるように痛い。あ・の・子・だ…夢に出てくるあの子だ。
「晴、大丈夫か」
後ろの席の蓮が声をかけてくれた。
「ああ…大丈夫少し頭痛がするだけだから」
俺は無理に笑って答える。本当は少しなんかじゃない、今にも死にそうだ。
「では、水瀬さんは月宮くんの隣の席ね。何かあったら学級委員の栗花落くんを頼ってください。栗花落くんよろしくね」
よりによって隣の席だなんて。
来る。あの子が来る。
「月宮くん…?水瀬澪です。よろしくお願いします」
返事、返事をしないと。
「あ…月宮晴です。よろしく」
俺は今日一日全く集中することができなかった。水瀬は本当にあの子なのか?それとも別人なのか?ずっとこのことばかり考えていた。
放課後、蓮が水瀬に声をかけた。
「俺、栗花落蓮っていうんだけど、水瀬この後少し時間ある?もしよかったら学校を案内しようか?な、晴?」
急に振られたので驚いた。
「水瀬って夢の女の子と何か関係があるんじゃねえの?関わったら何か分かるかもしれないし」
蓮が俺だけに聞こえるように言う。さすが、感が鋭い。
俺達は水瀬に学校を案内することになった。
「ここが理科室。教室から少し遠いから移動の時気をつけて」
「栗花落くん、月宮くんありがとうございます。慣れない場所に来て不安だったのでとても助かります」
「そんなかしこまった言い方じゃなくていーよ。クラスメイトなんだし」
「ありがとう」
蓮は凄い。もう打ち解けている。
俺は…俺はなんて話しかければいいんだ。君は夢に出てくる女の子か?なんて言えない。まだ知り合ったばかりの相手にそんなことを言われたら誰だって怖いだろう。
「こっちは俺の大親友の月宮晴…ってまあさっき自己紹介してたか。こいつ今日ちょっと具合悪いみたいで、ごめんね」
「ううん、むしろそれなのに案内してもらってごめんね」
「大丈夫気にしないで」
と、咄嗟に答える。蓮が気を遣ってくれたみたいで助かった。
「あっ…ごめんバスケ部の助っ人頼まれちゃった。俺ちょっと行かないといけないから晴、水瀬をよろしく!」
うそだろ…2人きりなんて…。
しばらく沈黙が続く。何か質問、何か話しかけないと。
「「あの!」」
しまった、まさか被るとは。
「あ、どうぞ…」
俺は彼女に譲った。
「私ね、花言葉が大好きで。それぞれのお花にこめられた意味を知ることが好きで…お花って同じ種類でも色によって意味が違ってとても面白いの」
「例えばガーベラの花言葉は…」
ー希望、前向き。
「希望、前向きっていう意味があって。だから月宮くん、何があったのかは分からないけど元気を出して。」
「うん、ありがとう。少し元気が出たよ。」
俺は花言葉なんて全く知らないはずだ。何故意味が分かったんだ。
「あ、ごめん私好きなものを語ると止まらなくなっちゃって。ごめん次は月宮くんの番だね」
何か分かるかもしれない。俺は蓮にだけしか言っていないあのことを言った。
「いつからか時々同じ夢を見るようになったんだ」
「…同じ夢?」
「ある女の子が同じ台詞言う、それの繰り返し。その子のことを俺は知らないし何も分からないんだ。でもどこか懐かしくて忘れたくないのに忘れてしまった気がして…正直辛い」
その女の子が君に似てるとは言えなかった。こんな変な話ちゃんと聞いてくれているのだろうか。もしかしたら馬鹿馬鹿しいと突き放されるかもしれない。しかし彼女の返答は予想していないものだった。
「ねえ、人って死んだらどうなると思う?」
「え?」
俺は思わず拍子抜けした声を発してしまった。
「よく人が死んだら天国に行くとか地獄に行くって言われてるよね。でも、私はそうは思わない。私は死んだら人は魂になっていつまでも大切な人のそばにいてくれてるんだって、そう…願ってる。」
「もしそばにいれないのなら夢に出てくるんだと思う。だって死んだってその人は大切な人の記憶の中で生きてるでしょう?だから月宮くんの夢に出てくる人も大切な人だよ。きっとね」
もし大切な人なら何故思い出せないのだろうか。いつまでも頭痛が続く。水瀬の言葉には妙に説得感があった。違和感が1つも感じない。まるで本当にそうだったように…
気づけば最終下校の時間になっていた。
「もし俺で良かったら一緒に帰らない?」
「うん、いいよ」
思いだそうとすると苦しい。全部思い出した時俺はどうなってしまうんだ。でも思い出さなければいけない…気が…する。そのためにはあの子にそっくりな水瀬をもっと知る必要がある。
俺と水瀬は歩きながら担任の話とか前の学校の話とかそんな他愛のない話ばかりしていた。
「じゃ、私こっちだから」
十字路で彼女と分かれる。彼女は進み始める。俺も反対の方向に進もうとした。でも足が動かなかった。
行かないでくれ。頼む。お願いだから。もう二度と…
「待って!!」
気づいたら大声を出していた。まずい、やってしまった。水瀬とあの子を重ねるなんて。
彼女は驚いた目でこちらを見ている。
「どうかした…?」
「あ…な、なんでもない。ごめん。また明日」
最悪だ。俺は走ってその場から逃げた。