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ベスティア王国を出発したリィラ、ゼンティ、アレン、ヒメの4人は、馬車に乗ってアディール王国を目指す。
馬車を御するのはアレン。ゼンティはいつも通りの王子様の服装をしているが、リィラは質素なベージュのワンピース姿。
事前にゼンティから言われたのは、リィラは一般市民のふりをするという事だけ。毒を持つ種族である事は秘密にする。
リィラとゼンティは馬車の中で並んで座り、目的地への到着を待つ。リィラの膝の上にはヒメが乗っている。
「ゼンティは王子のふりをするのに、その瞳の色はどうするの?」
ゼンティの瞳の色は魔物特有の赤色。しかしセンティ王子の瞳はスカイブルーだった。
「瞳の色は変えられるよ。ちょっと力を使うけどね」
ゼンティが瞼を閉じて再び開けると、一瞬にして瞳の色が赤から青へと変わった。
瞳の色まで変えられるとなると、センティ王子と全く見分けがつかない。
すると馬車が停車して、アレンが座席の方に顔を出した。
「アディールの城下町に着きました。ここから先はお歩きください」
そう告げるアレンの瞳の色も赤色から茶色に変わっていた。これが人間だった頃のアレンの瞳の色なのだと分かった。
アディールの城下町の手前で馬車を降りて、そこから4人は徒歩で王城を目指す。
ここまで乗っていた馬車を引く魔物は、4人を降ろすとベスティア王国へと帰っていく。
アディール王国の城下町の賑わいは、希少種の獣魔が住むベスティア王国の比ではない。
リィラは緊張を忘れて気分が上がってしまい、人混みを避けながら周囲の街並みを見回して歩く。
ゼンティは前方に辻馬車を見付けると笑顔になる。
「あ、丁度いい馬車があった。お~い!!」
ゼンティが一人で駆け出して御者に話しかけると、御者の男性は驚いた顔をして頭を下げた。王子が声をかけたのだから当然の反応だ。
王子の権限で辻馬車に全員で乗り込むと、行き先を王城に指定する。
こうしていとも簡単にアディール国の王城に到着した一行だが、さらにその先も怖いほどに順調に進む。
見張りの兵が守る城門すら、ゼンティの顔を見るなり簡単に通した。当然ながら王子の顔パスである。
センティ王子が死んだ事実は市民も兵士も誰も知らないようだ。だとすると、もっと上の身分の者が隠蔽しているのだろう。
「ふふ。僕は生きてる事になってるから、逆に都合がいいよね」
ゼンティは楽しそうに笑いながら小声でリィラに囁くが、リィラは緊張でそれどころではない。
ゼンティとアレンはいいが、リィラは一般人。王子の連れという事で許されているのだろうが、普通は王城に入れない。
リィラはヒメをぬいぐるみのように抱いて歩いている。そして隣を歩くゼンティに小声で話す。
「ねぇ、ここからどこへ行くの?」
「……行かなくても向こうから来たよ。ほら」
ゼンティが前方を向いて立ち止まったので、横のリィラも後方のアレンも同時に立ち止まる。
エントランスホールの先から、真っ白なドレス姿の女性が早歩きで近付いてくる。
「お兄様っ!!」
ゼンティの顔を見るなり、女性は驚きに声を上げた。そして同時にリィラも驚きに声を失う。
この女性は容姿がゼンティにそっくりで、年齢は少し下。銀色の長い髪はふんわりとウェーブがかかっていて上品で美しい。
そしてゼンティを兄と呼ぶところから、この女性がセンティ王子の妹だと分かった。
「センティお兄様……まさか、そんな……生きていただなんて……」
「うん。レンには心配かけたね、ごめんね」
ゼンティは笑顔で答えるが、それが作り笑いなのはリィラにも分かる。
それと同時に、リィラはレンと呼ばれた王女の表情にも違和感を覚える。
死んだはずの兄が生きていたのだから驚くのは当然だが、嬉しそうな感情は見えない。
そんな事を思うリィラの後ろからアレンが一歩前に出た。アレンの姿に気付いたレンは絶句した後に再び声を上げる。
「アレン……!? あなたまで生きてましたの!?」
「はい、レンティ様。ご心配をおかけしました」
「本当に、本当にアレンですの……? 信じられない、夢みたい……」
レンの本名はレンティというらしい。レンティはアレンに対しては声を震わせて歓喜しているように見える。
ここでようやく、ゼンティはリィラの肩を引き寄せてレンティの正面に立たせる。
「それで、彼女はリィラちゃん。ここに帰る途中の森の中で倒れてたから保護したよ。どうも記憶喪失らしくてさ」
リィラはゼンティの言葉を黙って聞いていた。話を合わせろと言われていたが、記憶喪失の設定にされてしまった。
レンティはリィラに目を合わせると、疑いもせずに丁寧に頭を下げた。
「それは大変でしたわね。私はセンティの妹で、アディール国の王女・レンティと申しますわ」
「あ、初めまして、私は記憶喪失のリィラです……」
妙な自己紹介と下手な演技に、隣のゼンティが軽く吹き出した音が聞こえた。ヒメはいつの間にかアレンの足元にいる。
レンティは嫌な顔も疑いもせずにリィラを気遣う。
「ではリィラさんにはお部屋をご用意……」
「その必要はないよ」
ゼンティはリィラを強引に自分の胸へと引き寄せて抱きしめる。
「僕の部屋で一緒に住むから」
「え……お兄様、どういう事ですの?」
呆気に取られて戸惑うレンティだが、リィラにはゼンティの思惑が伝わる。それが演技で嘘であったとしても、なぜか胸が高鳴る。
「僕、リィラちゃんに惚れちゃったんだ。だから結婚するよ」
偽りのセンティ王子となったゼンティは、アディール王国でもリィラを娶るつもりだった。