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次の瞬間、本山で修業中に指導役の高僧に言われた言葉が、稲妻のように正源の脳裏を駆け抜けた。
「坊主が人前で迷うな!」
あの時、僧坊の板の間に座って信徒との想定問答をしていた。正源は途中で考えが回らなくなり、絶句してしまった。その高僧は正面から細長い木の板を正源の肩に叩きつけそう怒鳴ったのだ。
「迷える衆生を御仏のもとに導くのが坊主の役目、務めだ。その坊主が目の前で迷ってみせたら、誰が阿弥陀如来の道へたどり着けようか? 坊主は人の前で迷ってはならんのだ!」
あの時の言葉が脳裏によみがえり、正源の悩みを振り払った。
長い間考え込んでいたように感じたが、正源の手が止まっていたのはほんの一瞬だったらしい。隣の女性は気づいていないようだった。
正源はまっすぐに右腕を伸ばし、ロボットの額に紙を置き、鉦を三回大きく鳴らして、最後にひときわ高く声を張り上げた。
「南無阿弥陀仏!」
数秒の間をおいて正源は女性の方に向き直り、両手を胸の前で合わせて厳かな口調で告げた。
「これにて供養の儀、終了いたしました」
女性は額を畳にこすり付けんばかりに深々と頭を下げて礼を言った。
「ありがとうございました。これで私も心残りがなくなります」
作業服の男たちが立ち上がり、正源に一礼して、女性に話しかけた。
「では運び出してよろしいですか?」
女性はうなずき、ケースの縁に手をかけて中のロボットを見つめた。その両目から涙のしずくがこぼれ落ちた。
「ピーちゃん」
女性はまるで我が子に呼びかけるように、そう口にした。きっとそのロボットの事をその名前で呼んでいたのだろう。
「本当に長い間、ありがとうね。もうゆっくりお休み」
男たちがケースの上蓋を閉じ、本堂から運び出す。庭に着陸していたドローンの下部に何重にもワイヤーロープで固定し、若い方の男がスマホで離陸の用意をする。
様子を確認しに庭に出た正源は、ふと思い立って中年の男に訊いてみた。
「あのロボットはこれからどうなるんですか?」
男は少し首を傾げながら答えた。
「分解して、使える部品や素材は再利用されます。特にレアアースは今貴重ですから、抽出して新しい製品の製造に回されるでしょう。いうなれば、生まれ変わるんですよ。どこかの工場で、別な製品に。多分そんなところでしょう」
若い方の男が発進準備が完了したと大声で告げた。
コメント
1件
第6話、読みました。正源さんが高僧の言葉を思い出して迷いを振り払う場面、すごく印象的でした。「坊主が人前で迷うな」って、重い言葉だけど、その厳しさが阿弥陀如来の道に繋がるって考え方、深いですね。女性がロボットに「ピーちゃん」って呼びかけて涙するシーン、切なかった。最後に「生まれ変わる」って表現、ロボットにも魂があるみたいで、なんか考えさせられました。ありがとうございました。