テラーノベル
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――翌朝。私が目を覚ましたのは、王国のあの薄暗く、冷え切った神殿の奥ではなかった。肌を滑るシルクのシーツのあまりの心地よさに、私は驚いて跳ね起きる。見渡せば、きらびやかでありながらも上品に統一された、見たこともないほど豪華な寝室。窓の外には、我が国よりも遥かに発展した『ガルディニア帝国』の美しい王都の街並みが広がっていた。「……夢、じゃなかったのね」そっと自分の胸元に手を当てる。いつもなら、目覚めた瞬間に体中の魔力を無理やり持っていかれるような、泥のような倦怠感があるはずだった。毎日18時間、国の【大結界】を一人で維持し続けていた代償だ。けれど今の私の体は、驚くほど軽い。むしろ、今まで結界に9割以上吸い取られ、無理に抑え込まれていた魔力が体内で生き生きと巡り、かつてないほどの万能感に満ち溢れている。「よく眠れたかい、エルア」コンコン、という控えめなノックの音と同時に、低い、しかし酷く甘い声が響いた。扉を開けて入ってきたのは、豪奢な部屋の装飾すら霞むほどの美貌を持った青年。漆黒の髪を少し崩し、昨日までの厳格な軍服とは違う、上質な部屋着を纏ったガルディニア帝国の皇帝――ルファード陛下その人だった。しかも、その手には湯気の立つスープや果物が乗ったトレイが握られている。「へ、陛下……!? なぜ自らお給仕を……!?」「昨日まであれほど酷使されていたんだ。私の愛しい人が、まだベッドから起き上がれないほど衰弱しているのではと心配でね。さあ、大人しく横になっていなさい。私が口まで運んであげよう」「お、お口までなんて、滅相もございませんっ!」赤面して固まる私を見て、冷徹無慈悲と恐れられる皇帝陛下は、まるで子供のように悪戯っぽく、愛おしそうに微笑んだ。「ダメだ。これからは私があなたを全力で甘やかすと決めた。私の言うことを聞きなさい」昨夜、夜会会場から私をお姫様抱っこで連れ去り、そのまま帝国の魔導列車で連れてきてくれた陛下。彼の真っ直ぐな溺愛の眼差しに、私の心臓は朝から狂ったように跳ね狂うのだった。◇一方その頃――。エルアを「無能」と罵り、勝ち誇ったように追い出したカイルたちの元には、最悪の朝が訪れていた。王宮の最深部にある、結界の間。そこには、青い顔をしてガタガタと震えるセリアと、それを焦燥しきった表情で見つめるカイルの姿があった。「おい、セリア! まだ結界が展開されないのはどういうことだ! 朝一番の鐘はもう鳴ったぞ!」「だ、だって、カイル殿下……っ! おかしいのです、この魔力結晶、私の魔力を吸い取るだけで、一向に結界が広がる気配がなくて……っ!」セリアの聖属性魔法の「魔力数値」は確かに高かった。しかし、それは一時的に瞬間最大風速を出しただけに過ぎない。毎日18時間、絶え間なく魔力を搾取し続け、国の隅々まで結界の『糸』を張り巡らせるという泥臭く緻密な作業など、温室育ちのセリアにできるはずがなかったのだ。「そんなはずはない! エルアのような無能にできて、真の聖女であるお前にできないわけが――」カイルが言いかけた、その時だった。結界の間の重厚な扉が、凄まじい音を立てて弾け飛ぶ。「カイル殿下ーーーっ!! 大変です!!」飛び込んできたのは、鎧を血と泥で汚した国境の守備隊長だった。彼はその場にスライディングするように転がり込むと、絶望に染まった声を張り上げた。「国境の砦より緊急報告! 本朝、太陽が昇ると同時に、我が国を覆っていた大結界が跡形もなく消滅いたしました! 現在、結界の消失を察知した数千の魔物の大群が、防衛線を突破し、この王都へ向かって進軍中! 街は、大パニックになっております!」「な……っ、なんだと……っ!?」カイルの顔から、一瞬で血の気が引いていく。「嘘……嘘よ……! 私、聖女なのに……! 嫌ああああっ!」セリアは魔力を吸い尽くされた疲弊と恐怖から、白目を剥いてその場に頽(くずお)れた。彼らはまだ、何も分かっていなかった。神殿の奥でふんぞり返っていたはずのエルアが、どれほどの重責を、どれほどの無給の搾取の中で一人で背負っていたのかを。そして、そのエルアという「本物の至宝」を自らの手でドブに捨ててしまったという、取り返しのつかない大罪の重さを――。大逆転の歯車は、まだ回り始めたばかりだった。
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コメント
3件
ユーベルさん、第2話読了しました…! もう朝からルファード陛下の甘やかしが凄すぎて、私まで照れちゃいましたよ(笑)「口まで運んであげよう」なんて言われたら、エルアじゃなくても赤面しますって〜! でも一方でカイルたちの絶望的な朝…完全に自業自得だけど、胸がスッとするというか。エルアがどれだけの重責を背負わされてたか、やっと分かった感じですね。搾取からの解放と溺愛のギャップがたまりません🖤 続き、静かに待ってますね🌙