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「あのさ、毎回紅茶みたいに注がれるスタイルで物語に突入するのか?」
バックは冷や汗をかきつつ、小さくつぶやいた。
「仕方ないんじゃないの?他に方法ないんだし…」
そう返してくるミナに地獄耳だなという感想が湧き上がってくる。
呑気すぎないか?
「なんか地獄絵図だ…ウッ!」
下り立った地面の感触を味わいながらヴェインは漏らす。
お前も適用能力早すぎだろ!
同じモブのくせに精神構造、俺とは異なってるのか?
いや、そう思ってる俺がおかしいのか?
うわ~。マジ萎えてくる。
と考えてみても特に答えが出るわけではないので思考を停止して辺りを見渡す。
建物の作りや流れる空気はヴェインのいた世界に似ていた。
だが、見渡す限りそこは赤に染まっている。どこに視線を映しても、火の海だ。
まさに災厄は始まっているという雰囲気がにじみ出ていた。
元々そういう世界観なのか?
それともワームドの仕業だろうか?
人の姿も気配もなにも感じない。直感的にこの物語の終わりは近づいていると思った。
「早くワームドを見つけましょう!」
ミナは勢いよく声を発した。やる気に満ちているようだ。
意気揚々と一歩足を踏み出した。
だが、最初に異変に気付いたのはバックだった。
「あぶない!」
突然、目の前に火の玉が飛び込んできたのだ。反応が一瞬遅れる。
とっさに身をかがめるバック。
「キャアッ!」
ミナの悲鳴が響き渡った。
気づけば、彼女は地面に倒れこんでいた。
顔や腕、足に擦り傷が見えた。
「ミナ!」
バックは思わず駆け寄り、その体を抱き起こす。
「大丈夫か?」
「平気…」
弱弱しく返すミナ。
どう見ても大丈夫そうではない。額から流れる血がより生々しさを感じる。
ドスンという地響きで顔を上げるとそこには異凶の怪物がこちらを凝視していた。
「ワームドか?」
「今までのと形が違うぞ!」
ヴェインの言葉にバックも同意する。青いボディと赤い目は同じだ。
だが、遭遇してきたワームドよりも一回り頭が大きく、ただれ具合も激しい。まるでバージョンアップしたみたいだ。
「どうでもいい。早く倒すの!」
バックの腕の中からはい出したミナは言い聞かせるように発言した。
その一連の空きを見逃さないとばかりにワームドはその大きな口から火を吹きだした。
ますますモンスター感が増した気がする。
「コイツ…今までのより強いぞ!」
バックは思わず後ずさりした。クソ!こんな時主人公なら真っ先に立ち向かう所だ。
だが、所詮自分はモブだ。いくら出がらし程度の主人公力をもらったとしても根は変わらないのだ。
こんな状況でもモブである事を突き付けられるなんて。複雑でならない。
キュルッ!
何より、目の前の新ワームド、はモブの内心なんてお構いなしらしい。
現に今にも次の火の玉を打ち出してきそうな雰囲気がにじみ出ている。
「また来る!」
バックは二人に知らせるように声を上げた。
右によけるべきかそれとも左か…。
回転速度の悪い頭に力を入れた。
しかし、それもミナの召喚したディスティニーソードの出現で意味をなさなくなる。
もはや巨大な盾とかした剣は吹き出した火の玉を防ぐのに容易であった。さすがは勇者の剣である。
「はあはあ…」
しかし、仮の主であるミナは限界に来ていた。
「あまり無理するなよ。ミナ」
「そうだぜ。倒れたら…ウフッ。ここは俺が!」
「いきがらないでよ!弱いんだから」
「はあ!けが人は黙っててくれるか!」
おいおい、ここで町娘とチンピラの喧嘩はよしてくれよ。
バックが頭を抱える中、ヴェインはミナを庇うようにワームドに向き直った。
「まさか!」
「いでよ。召喚獣!」
バックの予想通り、ヴェインは彼の猫ちゃんを表に出す。
だが、今までのかわいらしい猫ちゃんではなかった。
緑の肌に禿げた髪。頭に申し訳なさそうにつけられた獣の耳。
二本足で立つそれは人生を重ねたおばあちゃん感もする。
「なんか、今まで一番強そうじゃねえ!フフフッ!」
「お前、数えるほどしか召喚してないだろ」
バックは思わずツッコミを返した。
目の前に現れた召喚獣はどことなく妖怪めいている。
俺の世界の東の国に伝わる河童という異凶の物のイメージがなぜか思い当たった。
「こういう時に真面目ぶるなよ。さあ、カッパ猫さん!ワームドを撃退してくれ」
ヴェインの世界にも河童はいるのか。
でもカッパ猫というネーミングはどうなんだ?
強敵と向き合っている時とは思えない疑問が頭をよぎった。
そんな中でも河童猫は顔色一つ変えない。現れた時のまま緑色だ。
しかし、ワームドの赤い目が自身を視界に捉えたその時、半分しか開けていなかった瞳がガバっと見開く。
そして、閉ざされていた突き出す口は大きく開かれる。
「ガアッ!ガガッガガガ!ガアッ―――――!」
河童猫の絶叫という名の歌が響き渡った。
「なんとも独特な歌唱力だな、ウフッ!」
ヴェインの間の抜けた返しが耳を通り抜けていく。
だが、バックの瞳は自然と落ちていく。
ああ、なぜか無性に眠い。ちょっとひと眠りしようかな…。
バックの意識はそこで完全に途絶えたのであった。