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新婚旅行から日常に戻ってからも、世界は幸せに満ちていた。
朝、隣に大好きな人がいる。まだ眠っている陽一さんに抱きつき、その首筋に顔を埋めて、めいっぱい彼の匂いを吸い込む。
「すー、はー……」
落ち着く彼の香りに包まれながら、私はいたずらに彼の下半身へ手を這わせる。 寝ぼけながらも、びくりと反応して困ったような顔をする陽一さん。それがたまらなく愛おしくて、何度もキスをする。
私は、こんな時間が永遠に続くのだと信じて疑わなかった。
けれど、ある夜のこと。
「あ、しまった。……買い忘れた」
行為の直前、彼の手が止まった。
「もう、結婚してるんだし、別にいつ出来てもいいでしょ?」
私はそのまま、熱を帯びた身体を彼に預けようとした。その時だった。
「……今日は、しない」
陽一さんが氷のように冷たい声で言い、服を着始めた。
「え? なんで?」
「僕は、そんな風に軽く考えられない」
彼曰く、引っ越しや結婚式、新婚旅行でリソース(資金)を使いすぎたから、今はまだ「その時期」ではないのだという。
次のボーナスを待ち、控えている昇進試験に合格して「盤石な体制」を整えてからにしたい。 理路整然とした、あまりに彼らしい理由だった。けれど、私はそういう堅苦しいスケジュール通りではなく、ただ愛し合いたいというフィーリングを大切にしたかった。
「……別に一回で出来ないかもしれないし。最悪、私が持っている株を一部売れば、お金なんて……」
私は会社の株を保有している。
それを売れば、彼が心配する「リソース」なんて一瞬で解決するはずだった。けれど、その言葉は火に油を注いだ。
「僕は、そういう生き方はしたくないんだ」
陽一さんは困ったようにそう言うと、私に背を向けてベッドに入った。冷え切った寝室で、私は自分だけがひどく惨めになった気がした。