テラーノベル
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ロボットは、赤ちゃんを連れて移動した。
戦闘用の拠点として使われていた建物が、まだ原型を保っていた。壁にはヒビが入り、床にはがれきが散らばっているが、屋根があり、外敵を防ぐことはできる。
赤ちゃんを床に下ろす。
赤ちゃんは周囲を見渡していた。知らない場所。知らない存在。それでも泣くことはなかった。ロボットは立ったまま赤ちゃんを観察する。
ーー人間型実験体
ーー博士が作成
ーー破壊禁止
それ以外の指示はない。
『…….』
守れ、という命令はある。だが守るとは何をすることなのか、具体的な行動は定義されていなかった。
外敵を排除する
危険から遠ざける
それだけなら今まで通りでいい。赤ちゃんの腹部から弱い音が鳴ったロボットのセンサーが反応する。
ーーエネルギー不足。
赤ちゃんは、エネルギーを必要としている。ロボットは内部データを検索した。
博士の研究ログ。
断片的な管理記録。
《人間の食べ物に近いものを与えろ》
《温度管理を怠るな》
《個体は非常に脆い生き物だ》
ロボットは赤ちゃんを連れ建物の外に出た。周囲の施設を回り、保存されていた食料を回収する。
拠点に戻り、ロボットは食料を床に置いた。赤ちゃんは首をかしげた。どう扱えばいいのか分からない様子だ。
ロボットは少し考え包装を開けた。
中身を小さく分け、赤ちゃんの口元へ運ぶ。赤ちゃんはためらいなく口に入れた。ゆっくり噛み、飲み込む。
ーー生存ー確認。
それからの日々は、単調だった。
ロボットは敵を探し、戻り、赤ちゃんの状態を確認する。赤ちゃんは少しずつ動けるようになり、声を出すようになった。
意味のわからない音。だが、ロボットはそれを記録した。倒れそうになると、手を伸ばす。危険な場所には近ずけない。
それは命令に従った行動だった。
だが、ある日
ロボットが拠点に戻ると、赤ちゃんがこちらを見ている。
立っている。
小さく震えながら、一歩、前に出る。
よろめき、止まり、一歩、また1歩。
そしてーー
ロボットの足元まで初めて歩いてきた。
赤ちゃんはそのまま装甲に額をぶつけるようにして、体を預けてきた。
理由は不明。
敵対行動ではない。
危険でもない。
ロボットは動きを止めた。
ーー接触、不要。
そう判断しようとして、処理が止まる。
赤ちゃんは離れなかった。
ロボットはゆっくりと膝をついた。赤ちゃんはそのまま倒れ込むように体を預ける。
守る、という命令が、ただ破壊しないという意味だけではないと、ロボットはまだ理解していない。
それでも。この個体を失うことは、許されていない。
それだけは、はっきりしていた。
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