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突然だが俺、一ノ瀬四季は紫苑さんと付き合っている。
あの人と付き合った経緯は長くなってしまうから説明しないけれど。実は、明日が半年記念日でお家デートをしようと紫苑さんから誘われていた。色んなものを貰いっぱなしだから何か買おうと思ってショッピングモールに来ている。屏風ヶ浦も連れて。屏風ヶ浦は海月を使う鬼國隊の奴と付き合っているらしい。写真見せてもらったけど、女の人だった。別にいいと思う、俺だって男同士だしな。
「あ、あの、一ノ瀬さんっ!これどう思います…?」
見せてきたのはペアリングだった。愛が重い気がするけどいいとおもう。向こうも愛重いらしいからお似合いだろう。
「いいんじゃねぇ?多分お前のこと好きなら何でも喜んでくれると思うぜ!」
そう言うとぱあっと顔を綻ばせた。
俺は紫と青のネックレスを手に取った。
「巳代さん、喜んでくれると思いますか…?」
「喜んでくれると思う!俺こそ女々しくねぇか…?」
大丈夫ですよっ!と、元気づけてくれる。
そうだといいな、と思いながら買いにレジに向かった。
ああ、明日会うのが楽しみだ。[newpage]
帰ろうとしたとき、ピタリと止まった。
「屏風ヶ浦、どした?」
「っいえ!別ルート通りましょう!」
珍しくはっきり喋っていた。
どうしてだろうと思って先を見ると、紫苑さんが店の女性店員と話していた。とても仲良さそうで、正直__勝ち目ないな、俺よりお似合いだな。そう思った。
そりゃ、そうだろう。俺みたいな男よりも綺麗なお姉さんの方がいいに決まってる。
「…あの、一ノ瀬さん、もう帰りませんか?無陀野先生が迎えに来てくれるそうですし。」
「っそうだな!」
無理矢理元気そうな声を出して笑った。
本当は、今にでも泣き叫びたかった。
明日、会いたくない。逃げ出したい。紫苑さんになんて言おう。何と言ったら会わずに済むだろうか。そんな、考えてはいけないであろうことが頭の中をずっと駆け巡っていた。
あの後すぐムダ先が運転する車が来て、今はそれに乗って羅刹学園に戻っていた。
皇后崎たちに屏風ヶ浦が連絡していたようで、皆心配してくれていた。
「大丈夫か?」
「ほらお前銃好きだったろ、モデルガン途中にあったから買ってきたぞ」
皇后崎と矢颪の話の中にはたまに無理矢理すぎる嘘もあったけど、それでも俺を元気づけようとしてくれているのが分かって。もう、我慢できなくて。涙が、つい零れてしまった。
「えっ、四季くん泣かないで下さい!?」
「泣くな一ノ瀬、飴でも舐めるか?」
「四、四季くん、僕達は四季くんの味方だからね…!」
ロクロも、遊摺部も、漣も、ムダ先も皆。
俺のことを心配してくれる。そんな自分が情けなくて仕方がない。
「おれ、さぁ…ッなんか、わるいことしたか、っ?」
本音が漏れた。
ダメだと、わかっている。でも。
「おれ、ちゃんとしおんさ、っがして欲しいことたくさんしてさ、っ」
「男だからって愛想つかれたくなかったし、好きって言ってたからぁ、っ髪伸ばして、でも、それでも足りなかったんかな…っ」
ずっと、思っていたこと。あの人は元々女性が好きだ。
俺が勝手に片思いして、何故か告白が成功しただけであって。でも俺はその奇跡を手放したくなかったから。だから、あの人の好みを聞いて、髪を伸ばして。でも、性別の壁なんて越えられるはずが無くて。
「わかってんだよ、あの人が…っ、おんなのひとのほうがすきだなんてさぁ…ッ」
一緒に居ることを許されているのならば。付き合ってくれるのならば。それだけでよかった。本当は遊びでもよかったはずなのに、どうしてこんなにも悲しいのだろう。何度も何度も、紫苑さんは俺なんかでよかったのかと考えた。でも、あの人は俺を振ったりしなかったから。紫苑さんの所為にはしないけど、それでも。それでも、胸がぎゅう、と締め付けられて苦しい。
数時間後、一ノ瀬は泣き疲れ、眠ってしまっていた。
「無陀野先生、紫苑さんどうされるんですか。」
遊摺部と屏風ヶ浦、手術岾が目を据わらせてそう言った。
矢颪、皇后崎、漣も静かに怒っていた。その中で一ノ瀬は幸せそうに眠っていた。しかし、目元が赤くなっている。全員あまり泣かない一ノ瀬を泣かせた朽森にしっかり激怒していた。
「京夜と練馬の2人に電話を繋いである。馨から話がいっているんじゃないか。」
そう言った瞬間車の空気が緩み、全員の瞳に光が戻った。
「馨さんが居るなら大丈夫だな」
「これであの紫苑さんが反省するか?」
「さ、流石にするんじゃないかな…?」
いつもの光景、会話。だがやはり怒りが治まるわけではなく、車内は少し空気が張り詰めていた。
時は、数日前に遡る。
一ノ瀬四季を人一倍溺愛している彼、朽森紫苑はとても悩んでいた。半年記念で贈る物をずっと悩んでいるのだ。なんとなくの思いつきで同期達を一ノ瀬の可愛らしい寝顔写真で釣り、いつも通り並木度の家で飲む約束をした。(家主は大変怒っていたので2枚追加で送ることになってしまったが。)
「来週の土曜、四季に何かしら送ろうと思ってんだけど。」
そう話を切り出すと、また始まったという空気が流れた。
「…彼の為に悩んでいる紫苑は凄いぞ!!」
ガハッと例の如く吐血した。猫咲がオイ、と言いながらハンカチを渡す。
「にしても今更だな…。お前が選んだやつなら一ノ瀬は大体喜ぶだろ。」
猫咲は呆れながらそう言った。
確かにその通りなのだがそれが困るのだ。
「だから困るんだよ。るーちゃんとかみたいにこう、欲しいものが決まってるとかならまだしも何でも喜んでくれるからさぁ…。」
「菓子とかつけたらどうだ?子供なら好きだろ」
流石子供好きの百鬼だが一応一ノ瀬は高2である。
それはちょっと問題だろう。そもそも未成年に手を出している(まだ抱いてはいないが)時点で問題ではあるのだが。
「却下、幾らなんでも子供っぽすぎねぇ?」
「…なら、花は?」
まさに鶴の一声だった。
花には花言葉というものがある。告白等で有名なのは薔薇だろうか。
「馨お前…!」
「相談乗ってあげたんだから貸した金ちゃんと返せよ」
「……まぁ頑張ってみる」
そのあとは、しっかり飲み会をした。
___誰も、並木度が愉悦の滲んだ顔で笑っていたことに気づかなかったが。
翌日。朽森は無陀野に呼び出され羅刹に来ていた。
何故か生徒からの目線が冷たい。以前のようにたくさんの女性と関係を持っていたのならまだしも、心当たりが全くない。なんか嫌われるようなことしたか?そう思案しながらも医務室に向かった。
「しつれーしまーす」
なんて言いながら医務室の扉を開けた。
中には淀川、花魁坂、無陀野、並木度が居た。
「…えっ何かあったっけ?」
「紫苑、お前浮気したんだって?」
並木度がそう言った。冷めたような、呆れたような目で朽森を見る。
「……は?」
乾いた音が口から漏れた。
前述の通り今は一ノ瀬一筋の朽森だ。浮気なんてするはずがないし、一ノ瀬に嫌われるのが嫌で考えることすらない。
「俺、浮気どころか女の子に会いに行ってないんだけど。」
がしかし。日頃の行いはこういう時に牙を剥く。
並木度の後を継ぐようにして花魁坂が口を開いた。
「紫苑はさ、今までたくさんの女の子と関係持ってたじゃん?正直そう言われても信用しようがないんだよね。」
今まで遊びまくっていた朽森の信用だなんて皆無に等しい。本人もそれをわかっているがそれでも浮気したことを認めたくなかった。
「いや、俺ほんとに浮気してないんすけど。それいつの話です?」
「昨日の話だ。」
昨日。昨日といえば、並木度に教えられた花屋に──。
いや待て、もしかして。そう思って並木度を見る。並木度の瞳は小さく感情が分かりにくい。然し、その目は昏い感情が_例えば嫉妬や劣情など_見えやすい。今回もその例に漏れず。その瞳には、そういった、形容しがたい感情が複雑に絡まりあっていた。
──もしかして、今回のことは全て馨の作戦だった?
朽森は一応戦闘部隊隊長である。察しや勘が良くなければ熟せない任務だって存在する。だからこそ、気づいてしまった。抑も、並木度が一ノ瀬に依存気味なのは何となく感じていた。いつもは上手く隠しているが、偶に一ノ瀬を見る目がおかしかったからだ。そう気づいた瞬間、朽森は目眩がした。きっとこれは、淀川も一枚噛んでいるだろう。花魁坂と無陀野はどうなのかわからないが。
「昨日、は。馨に勧められた花屋に行ってました。」
半年記念だし丁度いいだろうと思い、一ノ瀬らしい色の赤と青の薔薇を20本ずつ買っていた。あの店員さんは物凄くアタックしてきて不思議に思っていたが並木度の策略ならば頷ける。頷きたくはないが。
「証拠はあんのか?」
証拠、ということは花屋に行っていた証拠だろうか。
そんなのあるはずが無い。一々写真を撮らないんだから。
そもそも淀川は撮るのか?わざわざ?
「一々写真撮らないですよ、普通。」
買った花束の写真すら撮っていない。
枯れるのはごめんなので花瓶に生けてきたが。
「ならばそれが本当か噓かわからないな。」
「一旦保留、ってことにしとく?」
瞬間、保健室の扉がガラリと開いた。屏風ヶ浦だ。
「失礼します。証拠の提供に来ました」
目が据わっていた。戦闘中と勘違いしそうな程に視線が鋭い。スマホのアルバムを開き、とある画像を見せる
「遠かったので画質悪いですけど」
なんて言っていたが割と画質が良かった。
確かに花屋に居た。居たのだが。画像だけを見ると『店員と仲睦まじそうに笑いながら話している朽森紫苑』だった。浮気現場の証拠に見える。主に日頃の行いの所為で。どんどん外堀が埋まってゆく。存在しないのになぁ。否定しようと思い口を開くと、並木度に淀川のような笑顔でにこりと微笑まれる。これは不味い。本当に。
「何、紫苑。ここまで来てもまだ言い訳するの?」
言い訳。元凶はお前なのに何を言うんだと思ったが、反論しても自分が悪くなるだけ。朽森はそれが分からないような馬鹿ではない。というかそもそも馬鹿ではないのだ。だが、それでも。
「言い訳っつーかさ、何でこれだけで俺が浮気したって確定してんの?」
※続きはありません。
コメント
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読了しました!感想を述べさせていただきますね。 四季くんの「男だからって愛想つかれたくなかった」って心情、すごく伝わってきました。好きな人の好みに合わせて髪を伸ばす健気さと、性別の壁に怯える不安がリアルで、胸がぎゅっとなりました。ラストの「何でこれだけで俺が浮気したって確定してんの?」からの並木度の策略っぽい匂わせ、続きが気になりすぎます!キラキラしたデートの予定が一瞬で暗転する構成がうまいですね🌷