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【小さな相棒】
episode2
雨の匂いが、好きだった。
空気がひんやりして、音が柔らかくなる感じ。
世界が少しだけ、静かで優しくなるような気がするから。
「降ってきたね〜!」
こさめは嬉しそうに声を上げた。
分校の昇降口。
外はしっかりと雨が降っていて、地面には細かい水しぶきが跳ねている。
傘を差す人、差さない人。
それぞれが帰り支度をする中で、こさめは迷わず外へ飛び出した。
「ちょ、濡れるぞ。」
なつの声が後ろから飛んでくる。
振り返ると、傘を開いたなつが少しだけ眉を顰めていた。
「えー?いいじゃん、楽しいよ!」
「楽しくねえよ。」
即答だった。
その顔があまりにも“嫌そう”で、こさめは思わず笑ってしまう。
「なつくん、ほんと雨嫌いだよね〜。」
「当たり前だろ。」
「こんなに楽しいのにねぇ。」
くすくす笑いながら、こさめはくるりと一回転する。
雨粒が跳ねて、髪や制服に散った。
そのまま手を振って、先に歩きだす。
「また明日ねー!」
「……風邪引くなよ。」
そんな声を背中で受けながら、こさめは帰路に着いた。
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分校からの帰り道。
今日は遠回りをする気分だった。
雨の日は、どうしても寄りたくなる場所がある。
小さな海。
観光地でもなんでもない、ただ静かなだけの場所。人もほとんど来ない。
波の音と、雨音だけが響く場所。
「やっぱいいなぁ〜。」
こさめは満足気に呟く。
砂浜に足を踏み入れると、靴が少し沈む。
じんわりと湿った感触。
でもそれすら、嫌じゃない。
海は、いつもより少し暗い色をしていた。
雨で霞んで、境界がぼやけている。
その景色をぼんやり眺めていた、その時。
「……ん?」
水面に、何かが見えた。
ひとつだけ、波とは違う動き。
すっと、水を切るような――
細長い影。
「…………。」
こさめは目を細める。
それはゆっくりと、こちらに近づいてきている。
そして。
ぴょこん、と。
水面から、三角の何かが出た。
「…………ジョーズ?」
ぽつりと呟く。
いや、違う。
映画とかで見るやつは、もっと大きいし、もっと怖い。
これは――
「ちっちゃくない?」
どう見ても小さい。
犬くらいのサイズ感だ。
それでも、サメに違いない……はず。
そのまま、影はどんどん近づいてくる。
そして、ついに――
岸に到達した。
「え、え、え。」
状況が追いつかないまま。
次の瞬間。
ばしゃっ、と水しぶきが上がり――
サメが、飛びかかってきた。
「うわぁ!?」
驚いて、こさめはその場に尻もちをつく。
どしゃっと音を立てて、泥混じりの砂浜に座り込む。
白い制服が、一瞬で茶色に染まった。
「ちょ、ちょっと待っ――」
言い終わる前に。
サメはそのまま、こさめの胸元に――
ぐりぐり、と頭を押し付けてきた。
「…………。」
沈黙。
波の音と、雨音だけが聞こえる。
こさめは、ゆっくりと目を瞬かせた。
襲われている、訳ではない。
むしろ。
「……なにこれ。」
小さく呟く。
頭を押し付けてくるその動きは、どこか甘えるみたいで。
全然怖くない。
それどころか。
「……可愛い。」
思った。
素直に、そう思った。
濡れた体。小さなヒレ。
つぶらな瞳。
そして、ぐりぐりと離れようとしないその様子。
「……持って帰ろ。」
即決だった。
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帰り道。
こさめはサメを抱えながら歩いていた。
「ねえねえ、君さ。」
話しかけてみる。
「陸でも息できるの?」
サメは特に苦しそうな様子もなく、普通にしている。
むしろ、少し楽しそうに周りを見ている気がする。
「……できるんだ。」
ちょっと驚く。
いや、かなり驚いている。
「え、サメだよね?」
じっと見る。
どう見てもサメだ。
でも、陸にいる。
「……まぁいっか!」
こさめはあっさりと考えるのをやめた。
細かいことは、後ででいい。
今はこの子が可愛い、それだけで十分だった。
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家に着くと、こさめはすぐに風呂場へ向かった。
「泥だらけだもんね〜。」
自分も、サメも。
シャワーを出すと、サメは特に嫌がる様子もなく、水を受けている。
「えらいね〜。」
くすっと笑いながら、一緒に洗う。
泡をつけて、優しく撫でる。
ひんやりした体。つるっとした感触。
「変な感じ〜。」
でも、嫌じゃない。
むしろ楽しい。
「名前どうしよっかー。」
ぽつりと呟く。
小さなサメ。
小鮫。
「……それだと、こさめと被るもんなあ。」
少し考える。
うーん、と唸って。
そして、ふと思いついた。
「ここさめ、は?」
口に出してみる。
響きが似ている。
でも、ちゃんと違う。
「こさめとほぼお揃い!」
嬉しそうに言うと。
サメ――いや、ここさめは、ぱっと口を開いた。
ぎざぎざの歯が見える。
少しだけびっくりするけど。
その表情は、どこか楽しそうで。
「……気に入った? 」
問いかける。
ここさめは、こくん、と小さく頭を動かした気がした。
「じゃあ決まりだね!」
ぱっと笑う。
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風呂から上がったあと。
こさめは、小さな箱を取り出した。
中には、いくつかのアクセサリー。
「これ、どうかな。」
選んだのは、こさめも付けている雫の形をした小さなピアス。
きらりと光る、透明なそれを――
ここさめのヒレに、そっとつけてやる。
少しだけ揺れるそれは、雨の雫みたいだった。
「似合う〜!」
満足気に頷く。
ここさめも、どこか嬉しそうに見えた。
そのまま、こさめはそっと抱き寄せる。
ひんやりしているけど、ちゃんと存在感がある。
「今日からさ。」
にこっと笑って言う。
「こさめと友達!」
ここさめは、何も言わない。
でも、逃げなかった。
むしろ、少しだけ体を寄せてきた。
外では、まだ雨が降っている。
その音は――
やっぱり心地よかった。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡20
コメント
5件
アアアアアアアアアアアアアアアアアアア可愛良イイイイイイイえ,好き
だぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!((( 好きです!!!!!!(大声)