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「______♪______♪」
カラオケって、マジで天国だよね。
歌っている時だけ、嫌なこと全部忘れることができる。
私は一応、歌は下手。音痴。
家で歌っていると、耳を塞がれたり、注意されたりもするくらいの。
友達とカラオケに行った時も大体びっくりされる。
歌番組を見ている時だって、お母さんに「あんた、歌うの好きなのにとてつもない音痴ねぇ。歌番組見てて虚しくならないの?」とも言われる。
でも、音痴でもいい。
歌うのは全国民に与えられた自由だ。
音痴でもなんでも、歌えたら良いのだ。
だからカラオケは、天国のような場所。
好きなだけ歌えるし、マイクを持って歌うと、自分が歌手になったような気分になれるから。
週に2、3回は行っている。
いわば、常連さんみたいなもの。
「今日はこれくらいかなー」
時間はいつも通りフリータイムだけど、朝から歌っていたら流石に喉が疲れてきた。
喉壊しちゃったら歌えなくなっちゃうし、ほどほどにしないとね。
マイクを置き、部屋を出る。
「ありがとうございました。はい、料金」
レジに行き、やけに髪がサラッとしたいつもの店員に現金とポイントカードを渡す。
「おっ、麻衣ちゃん、今日はもう満足したの?いつもはもっと長いのに。ようやく時間が分かるようになってきたか」
お父さん嬉しいぞー、と言わんばかりの口調で店員はそう言う。
「うるさいなぁ、私も時間くらいは分かるんです!」
「ごめんてごめんて。それより、ポイントカード全部埋まったからね。次回から割引券使えるから。」
あっ、話そらした。
自分に都合悪いことだからって話そらすのは良くないんですよー、いい大人が。ばーかばーか。
「わかってるよ。何回来てると思ってるの」
そういいながら、割引券と新しいポイントカードを受け取る。
「じゃ、また今度もよろしくね」
「へいへーい」
お釣りを受け取り、出口のドアを押す。
ふあ〜〜カラオケ、最高だった。
なんで時間フリーなのにあの時歌うのやめちゃったのぉ!?
バカ!マジで!
そんなことを思いながらいつもの押しボタン信号のボタンを押す。
なんだか今日、ちょっと車が多い?
信号が青になるのを確認し、横断歩道を進んでいく。
「ファーーーーーー!!!」
「ひわっ!?」
ドンッ
大崎麻衣、カラオケ終わりのノリノリ中に事件発生!!
痛いよぉ、苦しいよぉ……
視界が真っ暗な中、幼い女の子の声が脳内に響き渡る。
そんなこと言われても、私にどうしろと?
私、あなたのこと知らない…
そんなことを思っているうちに、女の子の声はだんだんと遠ざかっていく。
やがて意識が戻ってきた。
どうやら、寝てしまっていたようだ。
重いまぶたを開け、視線を下へ向けると、わらが見えた。
え、わら?
どう考えても寝る環境ではない。
飛び出しているわらが体にくい込んでチクチクする。
「痛っ!?」
急に、左腕に恐ろしいほどの痛みが襲ってくる。
反射的に左腕を手でおさえる。
「いたい、いたい…」
痛みに耐えきれなくなった掠れた声でつぶやく。
一体どうなってんの、と思い、痛みのある左腕へ目をやった。
「えっ…?」
ちがう、これは私の手じゃない。
肌が白すぎるし、極め付けは指がものすごく短いのだ。
手や指はふっくらとしていて、赤ちゃん…まるで、幼女のようだ。
「…もしかして、あの声の主だったりする?」
自分の考えを声に出すと、はっきりとわかった。
その声が、あの幼女の声とそっくりなのだ。
私の声より、何オクターブも高い。
あ、今流行ってる転生ってやつ?
あまりよく知らないけど。
私が知っている限りは、転生とは一度死んで生まれ変わることだったはず。
私、間違いなく死んだんだよね?
たしか、横断歩道でトラックにひかれて。
そうだとしても、私は一体、どこの誰さんに生まれ変わったのだろうか。
一度体を起こし、部屋の中をグルッと見回してみる。
うっわお。この部屋、汚すぎるでしょ。
汚部屋の域を超えてるような…
衛生面の配慮とか、ないわけ?
床には埃や灰、壁には蜘蛛の巣だらけだ。
「っ!痛い!痛い!誰かあっ!」
また、最初の痛みが襲ってきた。
またまた、左腕からだ。
感じたことのない痛みが。
生まれ変わったら左腕を折った女の子でした〜とか、ないよね?
そんなの全然嬉しくないんですけど、ブスッ。
私が、誰か!と叫んだ声のおかげなのか、中途半端に開いたドアから、女性がパタパタと足音を鳴らしながらやってきた。
三角巾で頭を覆い、汚いつぎはぎだらけのエプロンのようなものを着ている女性だった。
「ガウル、%&$♯+@+♯%?」
「ほぎゃあっ!」
意味のわからない言葉を耳にすると同時に、私のものではないが、私の記憶だと思えるものが霧のように頭の中に入り込んできた。
数秒の間に、ガウルという幼女の記憶が無理やり頭の中に押し込まれたような感覚で、吐き気がする。
「うぐっ」
反射的に口元を手で押さえる。
「ガウル、どうしたの?」
先程まで意味が分からなかった言葉が分かっていることがすごく怖い。
「私はガ_____うっ!」
私はガウルじゃない、と反論したくても頭の中のガウルの記憶が邪魔をしてまるでその言葉を言わせないようにしているみたいだった。
頭の中で、お前は麻衣ではない。ガウルだ。と言い聞かせているみたいだ。
「ガウル、ガウル?どうしたの。返事をして。」
私にこう呼びかけて来る女性は全く知らない赤の他人のはずなのにまるで家族のような暖かさがある。
その感覚が自分の感覚ではないようで気持ち悪い。
暖かさと怖い感覚がせめぎ合う中、女性は私に「ガウル、ガウル」の呼び続ける。
「…母さん」
ホッとした母さんは知るよしも無い。
見覚えもない赤の他人の女性に私が当たり前のように口にした瞬間、麻衣ではなく、ガウルになってしまったのだ。