この世の中には、容量の良い奴、至って平凡な奴、容量の悪い奴、主にこの3種類の分かれる。
α、β、Ω。俺は、αの中でもランクが高い周りのαすらも、誰もが平伏す、そんな存在だった。
学校で検査を受けて、己がαだと知った時さほど驚かなかった。だって、自分がαである事に薄々気がついていたし、何より、自分の性が何であろうと俺にはどうでもよかったし、気にもしていなかったからだ。俺は、どんな性であろうと根源だしな。
「だーりぃ…」
質の高いαほど面倒な肩書きは無い。
何かと物を頼まれがちであるし、先生に至っては問題の答えを自分で把握しないまま俺を当て、適当に正解だとほざく。
俺のこの性格があっても拭いきれないほどの圧倒的α。
行事ごとでも、何かとリーダー枠にされがちだ。やれ委員長だ、団長だ…嫌では無いが、流石に重役を引き受けすぎて重荷になったのは覚えている。
生徒会選挙、クラスの奴らも先生も俺を推薦した。
結果は一目瞭然、俺は生徒会長になった。
まぁ、人をまとめること引っ張っていくことは嫌いじゃない。だから断ったりはしなかった。
αだからといって、言い寄って来る性格の悪いやつもいたが、そんな邪な考えを持たず、そのままの、優れたαという肩書きをなくしても、俺に仲良く、気兼ねなく接してくれる友達もそれなりにいて、俺はかなり恵まれていた。
ここまで見れば、それなりに充実した学校生活だったように思う。
そんなある日のことだ。
「ありがとな」
そう言ってやれば、何やらモジモジした様子でかけて行った。
俺は、調理実習に作ったお菓子を是非食べてくれと、名前もクラスもましてや学年すら分からない女に言われ、受け取った。
放課後、家に帰った後その存在を思い出してカバンから出した。
綺麗に包装された可愛らしいリボン付きのそれは、The女 という感じがしてなんだか気が引ける。
しかし、食べ物に罪はないと思い1口それを食べた。
「うっ」
その瞬間、なんだか得体の知れない何かが俺の体の奥底から込み上げてくる感覚と共に一気に体温が、ぶわわと上がった。
「はぁ、はぁ、」
上がり続ける体温と、苦しさから逃げたくて一生懸命に呼吸を整えようとするがそれも虚しく、俺はその場に音を立ててバタリと倒れた。
それからまもなくして、音を聞き付けた親が倒れた俺を見つけて病院へ送った。
そのあとの事だ、目を覚ました俺は病室のベッドにいた。病院の検査の結果によると俺はどうやらΩに性転換してしまったようだ。
親も信じられないと言った様子で、少し悲しそうに見えた。
当人の俺は、やっぱりどうでも良いことのように思えた。
でもなぜ急にΩになってしまったのか…と考える。
「えー、検査させていただいたのですが、αからΩに変わるとはとても稀なケースでして…。まぁ、完全に世の中のΩと一緒のように重たい症状が出る訳ではありませんが…。簡単に言えば、そうですね…軽いΩと言った感じでしょうか。」
心底どうでもいい。親に丁寧に話す医者の話に興味を持てない。
「結果を分析したところ、息子さんの体内に Ωらしき成分が外部から入ったと思われ、それが何らかの反応の引き金となって、質としては薄めではありますがΩになったと思われます。」
外部からΩの成分…。まさか、あのお菓子か?まさかな…。いやでも、可能性としては低いが、手作りであのお菓子を作ったであろうし、少なからず触れていたはずだよな…ということは、 あの女生徒はΩだったということか?
「はぁ…」
俺の溜息に、何らかの含みを持ったものだと勘違いした両親が、ベッドにいる俺に抱きついて背中を撫でた。
「ご親族の気持ちはよく分かります。…しかし、息子さんは弱い属性とはいえΩです。ヒートが来た際にはパートナーがいない限りには、しっかりと抑制剤を服用してくださいね。」
Ω、ヒート、パートナー、急に俺の人生に入り込んできたこの厄介たち、恨むぞあの時の女生徒。
そんなことを考えながらも、まあ普通に今まで通り生活できるだろうとたかをくくっていた。
退院して数週間後の事だ。
その日の朝の目覚めはいつもより悪く、少し体が重く感じた。
熱を計ってみるもそこまでなく、ちょっとした風邪かと思いそのまま学校へと向かった。
俺は後悔した。一限、二限、三限と授業をこなしていく度に体調が悪化していくのがわかる。
「(くそ、来なければよかった…。)」
何とか放課後まで持ちこたえ、帰り道をたどっているところだった。思い足取りで歩くいつもの帰り道は、憂鬱でしかない。
…というかなんだ?さっきから背後から気配がする。誰だ? そう思った矢先
「うぉっ!」
急に腕を引っ張られ人目のつかない路地裏へ引きずり込まれた。そのまま壁へ突き飛ばされ、少しの痛みが走る。…しかもどこからか鼻につく匂いがする。
いや、これどういう状況だ?路地裏ってもうそういうことじゃね?
おいおい、相手間違えてんじゃねえのか?俺は女じゃねーぜ?
そう思いながら、視線をあげるとうちの学校と同じ制服を着た男子生徒が3人ほど俺に立ちはだかっていた。
しかもなんだか様子がおかしい。
なんだ?俺に恨みでもあるのか?
まぁ、そうか、まだ俺は学校にはΩに性転換したことを伝えていない。無論、生徒たちも先生たちも、俺が優れたαである認識のままだ。
…ということは
「…なんだ?なにかの腹いせか?」
嫉妬や腹いせに、嫌がらせのようなことを受けることは何度かあった。これもその1つだろう。
そう思ったが、それはどうやら違うらしい。
男子生徒たちの息は上がっていて、顔が赤みがかっている。そういえばさっきの匂い、こいつらからする…。
「おい、お前、生徒会長さんよぉ。」
「お前、αじゃねぇーだろ?」
「、は?」
なんでバレた?どうしてそれを知っている?
「いい匂いさせちゃってさぁ?薬、飲んでないわけ?」
!?、なに?匂い?、そんな匂い…。
まさか! 俺の体調不良はヒートだったってことか…?
というか、ヒートってこんなに辛いのか。こいつらの圧でだんだん萎縮し始めた俺はさらにヒートを悪化させる。
「くそっ…」
「お利口αちゃんからΩに脱落とか、俺なら耐えられねー」
俺は姓とか気にしねー質だけどそんなにバカにされると腹が立つ。微笑と共に、俺を嘲るようにそう言う奴らを睨みつける。
「…あ?」
その凄みのあるたった1文字で俺は怖気付いた。 重低音、怖い、α、強い、喉の奥がヒュッと音を鳴らす。
と、1人の手がこちらに伸びてくる。
あー、ヤベェやつだこれ。
というか、俺弱めのΩじゃなかったのかよ…。
“属性が弱いからと言って、絶対にαが襲ってこないとは限らないよ。特にヒートの時はわずかな匂いを感じ取るαだっているんだからね。”
…そういえばそんなことも言ってたっけ。
今更になって薬を飲まなかった自分に後悔をし、もっとΩである自覚を持つべきだったと反省をした。
自分が気にしないどうこうじゃない、これは社会的にどうこうだ。
伸ばされた手が俺の両手を取り押さえ、もう1人の男子生徒が俺のワイシャツのボタンをプチプチとはだけさせる。
得も言われないおぞましさと嫌悪感を抱くも、手を強く抑えられ抵抗ができない。
足は怖さで震えどうしようもない。
ほんの数秒であらわになった俺の胸板に、サラリと触れられる。
鳥肌が立つ。気持ち悪りぃ。
「…やめろ」
本当に自分の声かと疑う小さな声で、でもしっかりとした意思持った声色でそう言うと、次は胸の突起に手が伸ばされる。
そして、かりっ と指で引っ掛けられる。
「…っ」
自分肩が大きく跳ねたのがわかった。こんなの前までは反応しなかったのに…。Ωはここまで俺を変えさせたのか?
「…くそが」
その反応を見てか、何度も何度も俺の胸の突起に指を引っ掛ける。
「っ…っ…ん 「!!」
思わず声を漏らしてしまった自分に驚きを隠せない。
「んぁ…ッ」
それを見計らって、次は違う男子生徒が俺の胸の突起に吸い付いてきた。
その瞬間ぞわぞわぞわっと全身に大きく鳥肌が立った。
気持ち悪りぃ、気持ち悪りぃ、吐き気がする
「…っおい、やめろっ、て言ってんだろ!」
必死に抵抗するも、どんどんエスカーとしていく舌使いに頭がふやけてきた。
怖ぇ、気持ち悪りぃ、鳥肌、
「…めろ、んっいやだっぁ 」
αに囲まれて襲われてる、その現状が怖ぇ、涙が出てきた。
足をジタバタさせて逃げようとしても逃げられず、必死に耐えるしかねぇ。
まさに最悪とこのことを言うのだろう。
あらぬ事か、男子生徒たちは俺の股間にまで手を出してきた。
ズボンに手を突っ込まれ、そこを擦られる。
「っ、ん、あぁっんはぁッ」
もう声の我慢が出来なくなって、そのまま自身の色ついた声を聞くしかない。最悪にも程がある。
「!?!?」
その手が後ろの方に回され、尻を触られる。
「、おい!なんのつもりだ!」
そういうもその手は止まらずにさすられる。そして、俺の耳元ではぁはぁ肩で呼吸してる男子生徒。
やべえ、これは本格的にやべえ。
「あれー?濡れてねーじゃん」
は?当たり前だろ
「つまんねーの、Ωは濡れるって聞いたんだけどなー」
……そんなの俺がいちばんよく知っている。嫌でも体がそうなっていくのを感じている。
でも、こんなのくそキモ野郎たちに濡らすほど堕ちてねーんだよ。
言ってやりたかったが、そこまで言うとあとが怖ぇから言わなかった。
それがわかったら否や、そそくさとブツブツ文句を言いながら消えてった。
彼らが去った後、俺はものすごく震えていた。強気な態度をギリギリ保っていたが、内心ボロ泣きだ。
まぁこれも昔の話、少しトラウマが残っているが、今のグループに所属してからはそれを忘れるくらい充実した毎日を過ごせている。