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布団の中で、私はなかなか寝つけなかった。
広瀬先輩の家に泊まるなんて、こんな展開、全く予想していなかったから。
部屋は静かで、唯一聞こえるのは時計の針が進む音と、隣で寝ている先輩の微かな寝息だけ。
私はそっと横を向いた。
ベッドは一つしかなかったから、仕方なく二人で寝ることになったけれど、距離は思ったよりも近かった。
「……」
少しでも動いたら先輩に触れてしまいそうで、私はぎゅっと布団を握りしめた。
(やばい、緊張する……!)
そっと先輩の様子を伺うと、先輩は静かに天井を見つめていた。寝ているのかと思ったけど、どうやら起きているみたいだった。
「……まだ起きてますか?」
私は小さな声で問いかける。
すると、少し間を置いてから、先輩がぽつりと答えた。
「……ああ。」
いつものクールな声だったけど、どこかいつもより優しく感じるのは気のせいだろうか。
「なんか…変な感じですね。こうやって先輩と一緒に寝るなんて。」
「……俺も、こんなことになるとは思ってなかった。」
ふっと笑いそうになったけど、私の心臓はずっとドキドキしていた。
この静かな空間で、先輩と二人きり。
(なんか、もっと話したいな……)
そう思っていると、先輩がふいに言葉を紡いだ。
「……お前、最初ぶつかってきた時から、うるさいやつだと思ってた。」
「え、ひどくないですか!?」
「でも……なんだかんだ、いつも気になってた。」
「え……?」
思わず息をのんだ。
ベッド越しに、先輩の静かな声が耳に響く。
「俺、こういうのよくわからないんだけどさ。」
「……?」
「たぶん、お前のこと、好きなんだと思う。」
――。
え、え、え???
心臓が跳ね上がる。
静かな部屋の中で、先輩のその言葉だけがはっきりと耳に残った。
「……どういう意味ですか、それ。」
「そのままの意味。」
先輩は、私の方を見ずに天井を見たまま、淡々と言う。
だけど、その声がどこか不器用で、少し震えているように聞こえた。
(もしかして、先輩も緊張してる……?)
「……」
私は布団をぎゅっと握りしめて、先輩の背中越しに小さく微笑んだ。
「……ずるいですよ、こんなタイミングで。」
「……悪い。」
「でも……嬉しい。」
そう言うと、先輩は少しだけ肩を震わせて、それから小さく息を吐いた。
「……もう寝ろよ。」
「はいはい。」
私は布団の中で、そっと目を閉じた。
心臓の音はまだうるさいけれど、なんだかすごく、幸せな夜だった。