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西側手前の扉の先には廊下が続いており左右にいくつか扉があった。その扉には【101】という数字が書いてあり、どうやらこの館はホテルをイメージして創られたものだと判明した。とりあえずやることはこの部屋たちを一つずつ探索していくしかないということ。手始めに手前の【101】に入る。
中の作りは自分が目覚めた部屋と変わっておらず、ベッドに机、衣類をしまうクローゼットそして小物を入れる用の小さな棚のようなものと、それとは別枠で本棚が置かれていた。自分が起きた部屋とは違いこの部屋は小綺麗で本が数冊転がってなければ、紙も散乱してる訳では無い。それに対して少しモヤっとした感情が生まれた。何故、自分の部屋はあんなに荒れてるのに他の部屋は綺麗なんだ、と。なんにせよ探索しないことには何も始まらない。手始めに机の上を確認する。机上には白紙の紙とペンが一本置いてあるだけで、これといったものは特になかった。続けて、足元付近にある引き出しも調べてみるが成果はなし。次に小物を入れる用の小さな棚を見てみるがこちらも成果は出なかった。残すは本棚だが、こちらは一つ成果が得れた。今自分が持っている【悪夢の館と亜人】の小説がここにもあったのだ。中身は所持してるものと変わらないが、いくつもあるとするとやはりこの小説が鍵であることを指し示すと予想し、その本を本棚に戻す。
ほんの少しだけ前進したことに喜ぶのも束の間、廊下から何者かの足跡が聞こえる。最初は自分以外の人間かと思ったが足音をよく聞くとその期待は直ぐに消える。ピチャ…ピチャ……と裸足で水溜まりを歩くような音であったのだ。また、足音の感覚は長くゆっくり歩いているのが分かる。直感だが、恐らくこの足音の主は【亜人】で間違いないだろう。音が遠ざかるのを部屋の中でじっと待ち、右から聞こえた音が左に移動し、そして音が消えたのを確認したあと扉をゆっくりと開けて外の状況を確認する。扉を開けた途端廊下からはものすごい鉄臭が漂ってきて吐き気に襲われた。
口元を服で覆いながら廊下に出て状況の確認をする。廊下には明らかに【ナニカ】が通り過ぎた跡が見つけられた。足跡は人の形に近いが本数が四つで、サイズ感は29ほどだと予想できる。そして、あの水溜まりの上を歩いてるような音と酷い鉄臭の正体は廊下に飛び散っている血溜まりであった。先程までこんなものはなかったのに少し部屋に入ってる間に何故かこんなものが出来上がっていた。しかし不思議なことに血溜まりがあるのにその発生源は見つからない。要は、血を流している遺体が近くにないのだ。では、この血は一体どこから溢れ出たものなのか…。謎が謎を呼ぶ展開に脳の処理が追いつかない。とにかく今自分に出来るのは亜人に気をつけて館の探索をする事のみ。少し息を整え、隣の部屋にと入り探索を続ける。
隣部屋に入るとやけに暗く、その部屋の隅でうずくまる何者かがいた。うずくまっているということは恐らく人で間違いないだろう。この人からも何か情報を得られると思い声をかける。
「あの?」
「きゃぁぁ!!?」
「す、すいません…」
「あ、あなたは?」
「僕は【湊】(ミナト)と言います。」
「わ、私は【朱那】(シュナ)て言います。高校二年の美術部で……」
「朱那さんだねよろしく」
「う、うん」
「それよりさっきの足音は?ここはどこなの?私はさっきまで寝てたのよ?」
「落ち着いて朱那さん。僕が知り得ることを教えるからまずは息を整えて、ね?」
「ご、ごめんなさい。少しパニックになって……」
「とにかくまずはゆっくり深呼吸して、ね?」
焦る彼女を落ち着かせ一度ゆっくり深呼吸を取らせる。その後も何度か深呼吸させ、気分を落ち着かせ話を切り出す。
「落ち着いてきたかな?」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、君が知りたいことを一つずつ話すね。僕も現状確認したかったところだからさ。」
「何から何まですいません…」
「まず、さっきの足音ってあの【ぴちゃ…】手足音のことだとしたら、あれは恐らく亜人という存在の足音だと僕は考えてるんだ」
「じゃあその亜人って?」
「この世界の創造主だと思う。」
「この世界は亜人という存在が創り出した世界で、僕達は今夢を見てる。その時たまたま、亜人が創り出した世界と波長があって誘われた、てことかな」
「なら今ここには同じ夢を見てる人が何人もいるかもしれないの?」
「恐らくね」
「それで、ここからは僕の予想でしかないんだけど今僕が手に持っているこの小説。」
「悪夢の館と亜人って書いてあるけど…」
「実は今起きてる現象はこの本の出来事通りになっている。でも、残念なことにこの本は未完なんだ」
「どういうこと?」
「先のページが白紙になっている。で、ここからが大事で、この本を完成させた時館からの脱出が掴めると僕は考えてるんだ。」
「何となく話の内容は分かったけど、気になることがある」
「それは?」
「完成させる方法だよ。先の展開は不明でそこから先の展開はどうやって知るの?」
「僕達の行動とこの小説のお話はリンクしてる可能性がある。なら、この館を探索していれば自然とこの小説の続きも生まれると考えた。」
「なるほど…」
「博打な考えなのは分かってる。でも、前に進むはそれしかない。亜人とかくれんぼなんてしてたらきっと何も出来ずに死ぬ未来しかない。」
「えぇ……そうですね。分かりました。私もここから出るために協力します。」
「見ず知らずの他人の言葉を信じてもらってありがとうございます。」
「命を助けて貰ったんですこれくらいはしますよ」
「それでは、また機会があればこれで…」
「いえ、その点は問題ないと思います」
「?」
「恐らく湊さんスマホを持っていると思います」
彼女にそう言われ自分のポケットを軽く触ってみると、確かにスマホらしきものが入っていることに気がついた。
「これで連絡を交わしましょう。」
「スマホが使えるなんて…」
「夢の中ですからきっとその辺も反映されてるのでしょう。」
そう言いながら僕と彼女は互いの連絡先を交換する
「何かあればこれで…」
「僕はこの後別の部屋を探索しますが、朱那さんはどうします?」
「私はもう少しここに居ることにする。まだ気持ちの整理が出来てないから」
「分かりました。一応先程話したことを、もう一度文字として残しておきますね」
「ありがとうございます」
会話を終えると彼は部屋を後にし、館の探索にと戻って行った。