テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
でも今日は、ひろの声がその静けさを少しだけ揺らす。
「うり」
「なに」
うりはいつも通り作業を続けている。でも、なんとなく空気が違うのは分かっていた。
ひろがこういう時は、絶対に“何か言う”。
⸻
「俺さ」
一拍。
「うりと、結婚したい」
⸻
一瞬、全部が止まった。
ブロックを置く音も、歩く音も、何もかも。
うりのキャラはその場でフリーズする。
「……は?」
やっと出た声は、それだけだった。
⸻
ひろは焦ったように笑う。
「いや、えっと、ゲームの話とかじゃなくてさ」
「現実の話してる?」
「うん」
即答。
⸻
うりはしばらく黙る。
そして、ゆっくりと一言。
「……急すぎ」
「ごめん」
「そういうの、普通順番あるでしょ」
「でもさ」
ひろは少しだけ真剣な声になる。
「もう、うりといるのが当たり前すぎてさ。これ以上一緒にいたいって考えたら、もうそれしか出てこなかった」
⸻
また沈黙。
でも今度は、さっきと違う重さだった。
⸻
うりは小さくため息をついて、
「ひろってさ」
「うん」
「ほんとにずるい」
「え?」
「そういう言い方されたら、断れないじゃん」
⸻
ひろの動きが止まる。
「じゃあ……」
「まだ何も言ってない」
「でも今のって」
「うるさい」
⸻
うりは視線をそらすように、キャラを少し動かす。
「結婚とか、よくわかんないけど」
一拍。
「……ひろと一緒なら、まあ」
⸻
そこまで言って止まる。
⸻
ひろは息をのむ。
「え、それって」
「最後まで言わせないで」
うりの声は少しだけ小さい。
でも、逃げてはいない。
⸻
「……いいよ」
⸻
その一言は、すごく短いのに、全部を決める音みたいだった。
⸻
ひろはしばらく動けなかったあと、やっと笑う。
「うり、今のやばい」
「うるさい」
「結婚した」
「ゲーム内の話じゃないからね」
「でも嬉しい」
「……知ってる」
⸻
ふたりはしばらく黙ったまま、拠点の中に並んで立っていた。
いつもと同じ場所なのに、なぜか少しだけ特別に見える。
⸻
うりは小さくつぶやく。
「ねえ」
「なに」
「これからも、うるさくするの?」
「うん」
「最悪」
「でも一緒にいる」
⸻
うりは少しだけ間を置いて、
「……ならいい」
⸻
ひろは笑って、ぽつりと言う。
「結婚したね」
「しつこい」
⸻
でもその夜、ふたりはログアウトしなかった。
ただ並んで、同じ世界にいて。
それだけで、もう十分だった。
萌花
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!