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「やりたい仕事って、車関係だったの?」
「そうなの、それも整備がしたくて」
「スーパーのパートよりずっとやりがいがありそうね」
へぇ…と言いながら工場の中を見渡す洋子さん。
「みんなは元気してる?」
「うん、相変わらず…あ、店長だけちょっとね。今日仕事終わってから時間ある?」
「あるある!店長の話、聞きたい」
「じゃ、仕事が終わってからどこかで食事でもどう?」
「わかった」
「じゃ、車検、よろしくぅー」
そう言うと代車に乗って帰って行った。
「今の人、未希さんの知り合いだったんだ」
「うん、ここに来る前の仕事のチーフ、洋子さんっていうの」
「そうか、元気な人だね。さて、やっちゃいますか!」
「はい」
仕事モードになると、とても厳しくなる貴くん。
真島さんと呼ばなければならない雰囲気を醸し出してる。
仕事に真面目なのは、大人としては当然と言えば当然だけど。
仕事が終わって、あのお店に行った。
「お待たせ!」
「お疲れ様、車屋さんの未希さん」
「あは、まだまだだけど」
パスタとアイスティーを注文する。
「洋子さん、もう1人暮らしには完璧に慣れた?」
「うん、慣れた慣れた。でもね、面白いことがあるの」
「なに?いい男でもできた?」
「あはは、まさか!離婚して別に暮らすようになってから、旦那とより近くなったの」
「へっ?」
「もとさや?」
ちっちっちっと立てた人差し指を左右に振る洋子。
「なんていうのかなぁ?同志?親友?すごくいい関係だよ。生活はそれぞれで関係ないから、いいとこだけ見てればいいし。相談事があってもよく知った仲だから、いいアドバイスをしあえるのよ」
「へぇー、なるほどね」
「うちの旦那は旦那としてはイマイチだけどね、人として友達ならばいい奴なんだって気づいたわ」
「それは離婚の収穫だね」
「まぁね、前向きな離婚になったってこと。あ、離婚と言えば、店長の話ね」
「それ、聞きたかったやつ!」
パスタが運ばれてきて、食べながらのおしゃべり。
「うちに若い人妻、いたでしょ?うーん、23か4?おぼえてない?」
少し前の記憶を引っ張り出す。
「いたねー、ちょっと地味だけど若い子」
「そう!その子と店長できちゃったって噂になってさ、その子の旦那が乗り込んできたの、お店に」
「えーーっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
あたりを見渡して、声をひそめる。
「どうしてまた、そんな…」
「その子って、DV受けてたみたいでね…同情した店長が相談に乗ってるうちに一線こえちゃったみたいな?まぁ、結局は誤解だったんだけどね、大騒ぎになっちゃって」
「よくあるやつか」
「よくある、けどその旦那がまたそのスジの人らしくて、お店に乗り込んできて暴れる暴れる!警察を呼んじゃったよ」
ガラスの修理代って高いんだよね、とか言いながらパスタを食べ続ける。
「で、どうなったの?」
「店長は異動、でも誤解だったから離婚はしてないはず。あの子は多分、辞めさせられたね、あの旦那に」
「可哀想だね」
同情してしまう。
「いや、どうだろ?」
洋子は頭をひねる。
「どういうこと?」
「警察が乗り込んできたときに、その子、笑ってるように見えたんだよね。もしかして、わざとかも?なんて思っちゃったよ。離婚できないからわざと店長と…なんてね。警察呼べば介入してくれるだろうし。ま、想像だけどね」
同じ離婚でも色々あるんだなぁ。
結局、店長は隣町へ異動になったらしいけど、
奥さんが寛容な人で離婚にはならなかったとか。
私だったらどうするだろう?
今の旦那がそんなことをしたら?
別に離婚はしないかも。
悔しいとか嫉妬の気持ちはない。
あ、私、もう旦那のこと好きじゃないのかと気づく。
外でしてこいと言われ、そのまま出張で別居状態だからか。
かと言って離婚もめんどくさい。
一回してるから、余計にそう思う。
洋子さんが言うように、愛情がなくても結婚生活は続けられるものなのかもしれない。
「やっぱりお金の方が、重大事項ってことだね」
なんて結論を出して終わった。
また、食事しようねと別れて家へ帰る。
そんなことより、今の私の頭の中は次の楽しいことを探すことでいっぱいだった。
ポストにまた封書が二つ。
一つはまた旦那宛て。
もう一つは私宛の有名劇団の会報だった。
そうだ!次はこれに誘ってみようと決めた。
「ただいま、タロウ!」
すりすりと頭を擦り付けてくる。
ご飯をあげて、スマホを取り出した。
会報の写真を撮って、LINEに添付した。
「次はこれ!予定はどうですか?」
ぴこん🎶
『俺、そんなの初めてだ。うん、行ってみたいな』
「じゃ、次は私がお連れします」
ぴこん🎶
『よろしく!』
その後、日程を決めてチケットの予約をした。
来月の休みの日、また楽しみな予定が入った。
ふと、旦那宛の封書を見る。
市役所?税務課?
連絡だけ入れておくか。
「また封書が届いてる。市役所の税務課だって」
返事はきても知らない。
送信だけしてお風呂に入った。