コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
税務課から封書がきたとのLINEには、既読は付いたけど返事はなかった。なんだか、頭にきた。
〈開封するけどいい?返事ないならオッケーだということにするよ〉
送信!
怒りスタンプも付けた。
既読あり、返事なし。
ったく!!
ハサミで開封する。
【督促状】だった。
えっ!
税金だけはちゃんと払ってたと思ってたんだけど?
旦那に電話して問い詰めようかと思ったけど、時間も遅いし出ない可能性もある。
もしかして役所の手違いかもしれないし、明日確認してからにしよう。
ん?
この前突然帰ってきたのはこのこと?
だったらあの日に払ったとか。
じゃあ手違いというか行き違いってことね。
自分勝手に解釈して眠りについた。
寝付く頃には、予約した劇団のステージが頭に広がっていた。
次の日。
10時の休憩時間に、封書に書かれた問い合わせ先に電話してみる。
「あの、こんな封書が届いたんですけど、ホントに支払ってないのか確認したいんですけど」
『しばらくお待ちください』
保留の音楽が流れる。
ガチャっと切り替わる音、担当者に変わったのか。
そしてしばらくの時間。
『お待たせしました、小平進さんですね、はい、滞納されてますね、かれこれ1年ほどになりますので、そちらに届いている支払い書には、滞納の金額も含まれてます』
「え?1年分も?去年も?」
『はい、4回に分けて支払っていただくことになってますが』
「わかりました、すぐに支払います!」
なんてこと!
私は払わなければならないお金は、キチンと払いたい性格。
旦那もそうだと思ってたのに、何故滞納?
支払いの振り込み用紙を見る。
これは所得税。
もう一つは?あれもそうかもしれない。
車?固定資産税?住民税?
あれ?会社員だから天引きのはずでは?
「さて、仕事するよ!」
貴君にポンと肩を叩かれた。
あれこれ考えているうちに休憩時間が終わってしまった。
「あ、あのさ…」
「なにか?」
「お昼休み、ちょっと抜けていい?用事ができてしまって」
「あ、いいよ。1時間だけど、急用なら仕方ないから慌てないで。事故でもされたらいけないから」
「ありがとう」
一旦帰って、あの封書も開けてみよう。
そして…
どういうことか、キッチリ話してもらおう。
昼休み。
とりあえず、急いで帰宅する。
レターラックからあの封書を取り出す。
封を切ろうとした時、スマホが鳴った。
『もしもし?未希さん?』
「え?あ、はい、そうですけど」
この声、誰だっけ?
公衆電話からって。
『お元気そうでよかったわ、あのね、ちょっとお願いがあるんだけど』
「はぁ、なんですか?」
お義母さんだった。
うわ、こんな時になんの話だろう?
嫌な予感しかしないんだけど。
そんな私の心の声も無視して、話し続ける。
『私ね、入院したの。だからね、うちに来て家事を手伝ってちょうだい』
「は?え?入院って?」
『ちょっとね、腰を痛めてしまって、大したことはないのよ、だから心配はいらないの。でもね、うちの人、何もできない人だから心配なのよ。毎日とは言わないから』
「え、そんなお義姉さんは?」
『あの子は働いてるから、無理言えないでしょ?』
「いや、私も仕事…」
途中まで言いかけた時
『とにかく、お願いしますね。あ、進には言わなくていいから。心配させたくないのよね』
かっちーーーーん!
「…」
ダメだ、何か言おうとすると怒りが爆発しそうだ。
いつもこうだ、私よりずっと近くに住んでるお義姉さんには気を遣って、なんでもかんでも私に言ってくる。
『とりあえずそういうことだから、お願いね!あ、お見舞いはいらないから』
ブチッと電話は切れた。
んぁーーーーーーっ!!
思わずスマホを投げつけそうになった。
これは、旦那にぶちまけないと気が済まない!
私は怒りで震える手でスマホを操作する。
ん?
LINEがきてる。
旦那だ!
『母さんが入院したって、姉さんから連絡がきた。困ってるみたいだから行ってやってくれ』
ぶっちーーーーーん!!!
頭の中で何かが切れた音がした。
何かを壊してしまいたい衝動に駆られて、クッションや雑誌を手当たり次第に投げてしまって、タロウがびびって2階へ走って行った。
「ハァ…ハァ…」
息が上がる。
それどころじゃないだろ!!
滞納は?!
勢いで開けかけていたもう一つの封書を開けた。
【督促状】
だった。
時計を見ると1時少し前、急いでも10分ほど遅れてしまう。
貴君に電話して、少し遅れることを伝えた、その分残業するからと。
『慌てなくていいから、落ち着いて、ね、大変なことがあったみたいだけど、そういう時こそ、落ち着いてゆっくり行動することが大事だよ』
「ありがとう、気をつけて戻るから」
深呼吸をして、わざとゆっくり車を走らせる。
音楽だけは、ボリュームを上げた。
何がなんだかよくわからない状況で、頭がクラクラする。
工場に着くと、貴君が社長と話していた。
「すみません、遅くなりました」
「あー、大丈夫だよ、小平さんの分もコイツが働くらしいから」
「はいはい、やりますよ、だから社長、邪魔しないでくれますかね」
ボンネットを開けて作業していた貴君が答える。
「じゃ、しっかり働いてくれたまえ」
社長は店舗の方へ戻って行った。
「なにかあったんでしょ?」
「え、わかります?」
「3ヶ月あまり一緒に仕事してるんだよ、それくらいわかるよ、声の感じとかで」
「そう…ですね、あの、お義母さんが入院したって連絡があって、それでその…」
「そうなんだ、大変だね?休みとか時間の調整なら遠慮なく言ってよ、なんとかするから」
「ありがとうございます」
優しい言葉に泣きそうになる。
税金の滞納の話は出せなかった。
そんなお金にだらしない旦那のことは、貴君には言いたくなかった。
「さて、遅刻した分も頑張らないと」
「よっしゃ、頼むよ。そうだ、今日はこの部品の交換の仕方と、コツを教えるからおぼえて」
「はい、お願いします」
頭を切り替えた。
仕事だ、今はとにかく。
いつもより丁寧に教えてくれる気がした。
私のことを気遣ってのことかもしれない。
細かいことまで指導されてるうちに、聞き逃すまいと集中して、いつのまにかゴタゴタのことは頭の隅に追いやっていられた。
そうやって仕事が終わると、適度な疲労感と充実感に包まれる。
「さてと、今日はここまでだな。帰ろうか」
「はい、ありがとうございました」
「色々大変かもしれないけど、仕事の時は集中してね、ミスもだけど怪我しないようにね」
「あ、はいわかりました」
頭がリセットできた気がする。
ありがとう、貴君。
まずは税金の話を旦那とする。
それから…行きたくないけど、一回くらいはお義父さんのところへ行って、家事をするかな。
あー、落ち着いて考えたら、それだけのことだ。
税金を払う。
お義父さんの家事を手伝う。
頭に血が上って、ものすごくごちゃごちゃした気がしたけど。
ここは感情を抑えて順番に片付けることにしよう。