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崩れゆく城、暴かれる真実
王都その中心、金剛の城塞都市《セントイグニス》。
今、その「絶対」の名を冠する城が、火に包まれようとしていた。
放送塔が乗っ取られ、反乱軍《箱舟》が公開した映像。
それは王の粛清記録かつて秘密裏に行われた能力者の処刑、民意の操作、言語制限技術。
そして何より、王が能力者であるという国家最大のタブーを明らかにした。
『国王ヴァルト・エルステイン能力:深層制律。
無意識に命令を埋め込み、個人の自由意志を「国家意志」へと書き換える異能』
これまで「王の命令に逆らう者はいない」とされた理由。
それは「従っていた」のではなく、「思考が従うように作り替えられていた」から。
人々は絶句し、白冠騎士団ですら動揺を隠せなかった。
それでも、王の命令は下された。
『全能力者、およびその支持者の即時処分を開始せよ』
白冠騎士団、全軍出撃。
市民避難区域を封鎖し、契約者の掃討を始めた。
一方、地下避難通路。
ミレイユ・カーネリアスは、自らを「元」白冠騎士と名乗り、
ラースらとともに市民の保護活動を続けていた。
だがそこへ、白い影が差す。
「よくぞ現れたな、裏切り者」
レオナール・クラヴィス団長。
騎士団筆頭、王に忠誠を誓い続けた剣の化身が、静かに歩み出る。
「……もう、退いてください。団長。あなたと戦いたくない」
ミレイユの声は揺れていなかった。
だがその背で、ラースが手を震わせる。
「ミレイユ……無理だ。奴とやりあって、勝てるはずがない!」
「ラース、民間人を連れて逃げて」
「でも!」
「お願い。ここは私が選んだ道だから」
ラースが唇を噛み、引き返す。
ミレイユは静かに剣を構え、雨の中に立った。
「私は、もう剣じゃない。意志で動いてる。
あなたがそれを止めるなら、私は戦う」
レオナールが剣を抜く。
「ならば、騎士として処す」
瞬間、空気が裂けた。
剣と剣が激突し、地面が砕ける。
レオナールの剣速は尋常ではない。
彼は異能を持たぬが、何千時間も修練を重ねた絶対の剣技を持つ。
「……はっ!」
ミレイユは紙一重で躱すが、肩を斬られる。
赤が滲み、視界が揺れる。
「その程度か。お前に王は止められん」
「違う……私は、王ではなく、あなたを止めに来た」
二人の剣は、もはや言葉ではない。
信念と信念が、打ち合い、削り合い、砕け合う。
数十合の斬撃の末
レオナールの突きが、ミレイユの腹を穿つ。
「あぁ!っ……ああああッ!!」
吐血。
膝が崩れそうになる。
それでも、彼女は退かない。
「なぜだ……なぜ立つ。お前はもう……!」
「立てるからじゃない。立たなきゃいけないから、立ってるんです……!」
ミレイユの剣が、唸りを上げる。
血塗れの腕で振るったその一撃は、全霊だった。
「これが……私の、最後の正義だああッ!!」
剣が突き抜ける。
レオナールの鎧が裂け、その胸を貫いた。
沈黙。
剣の音だけが残った。
レオナールは一歩、二歩と後退し、口から血を吐く。
「……お前は、強かった…」
「あなたも、最後まで……騎士でした」
レオナールが、静かに倒れる。
雨音が、すべてを包む。
その夜。
ミレイユは避難区域の隅で、壁に背を預けながら血を流していた。
もう歩けないかもしれない。
それでも、剣は握っていた。
そこへ、影が現れる。
ノア
仮面をつけたまま、彼女の隣に膝をつく。
「……剣を、置いたのか?」
ミレイユは、うっすらと笑った。
「違う……ようやく、誰のために振るうかを決めただけ」
ノアは黙って彼女を見つめる。
このとき、まだ互いの素顔も名前も知らない。
だが、どこかで、魂の一部が繋がっていることを感じていた。
ノアは小さく呟いた。
「君のような剣なら……この国の夜を、切り裂けるかもしれない」
そして、そっと彼女の手に契約の破片願いを記す銀の紙片を渡した。
「それを使うかは、君次第だ。
君が何を願うのか……その願いが、この国の形を変える」