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夏休み明け、昨日よりしとしとと降る雨に憂鬱さを感じながら、家の門を閉めた。 カチャンと鳴り響く音と、手に付いた水滴にこの苛立ちはより加速する。
傘を持つのがダルイ。
ポツポツと傘に当たる音が耳障り。
濡れた靴が靴下まで染み込んできて、気持ち悪りぃ。
胸につかえているものがより重くなったような気がし、息苦しさを感じるが俺はただ学校に向かって行く。
あれから一文、「悪かった」とだけ送った。
二週間、死ぬ気で考えた謝罪文がこれとは。ガキでもこれよりまともな文章書けんだろ、と情けないやら呆れるやら。
そんな誠意のない一文なんか、当然未読であり、許せない感情がヒシヒシと伝わってくる。
それはそうだろう、あいつは何一つ悪くないのだから。
俺は顔を上げ、ポツポツと降りゆく雨をただ見つめる。
クラスで非難轟々かもなぁ。
まあムリもねぇ、女子泣かしちまったんだし。
中学の時、小説書いてたこととかバラされたよなぁ。
別に良いよな、クラスで浮きまくってたんだからよ。
元の評価落としとけば、下がることに怯えなくていい。ホント、その通りだったな。
許されなくていい。あいつが筆さえ折らなければ。
そう思いを伏せている間に学校に着き、歯をギリっと噛み締めた俺は俯きながら教室に向かう。
所々で「久しぶり」と騒いでいる奴らの声が響いてくるが、心を無にして教室ドアをガラガラと開けて入り、自席にドカッと座って周りを睨み付ける。
すると教室にいた奴らがこっちに目を向けたかと思えば、ザワザワとし出す。
陰口じゃなくて、堂々と叩け。
なんだったら、よくも彼女を泣かしたなって殴ってきてもいーんだぜ?
そんな思いが通じたのか吉永未来に好意を抱いていると思われる内藤がこっちに向かってきて、情けねぇことに変な汗がブワッと溢れてきた。
「おはよっ」
「……ああ」
「夏休み、どうだった?」
「はぁ? まあ、バイトしてたなぁ」
しばらく盛り上がりもしねぇ会話が繰り広げられるが、こいつは嫌な顔もせず俺のバイト話について聞いてきやがる。
去年の文化祭から、俺のようないるかいねーか分からない奴にまで話しかけて来やがって、ホント何なんだよコイツは?
うるせーチャイムが鳴り響き、「じゃあ、またね」と席に戻っていくアイツ。
はぁ? マジで何なんだと呆けていると、教室ドアを開ける担任がいて、前方を見るフリして吉永未来の席に目をやると、そこに座っていたサラサラ髪のセーラー服姿の女子は居なかった。
また、具合が悪りぃのか?
それとも、俺のせい……とか?
どんだけ自分に影響力あると思ってんだと嘲笑されそうだが、俺はそれほどのことをした。してしまった。
それこそ作家生命を絶ってしまうような、これぐらいのことを。
そんな動揺する俺に、その答えを出してくれたのは。
「吉永は留学することが決まった」
教師のその一言だった。
途端に教室中はざわつき、一時収集が付かなくなるぐれぇに会話が飛び交った。
留学? どこの国に? いつ出発していた? いつ帰ってくる? そもそも何の勉強をしに行った?
そんな質問に包まれる中、教師は「個人情報だから」とだけ返事し、それ以上を語らなかった。
朝からの鬱陶しい雨はいつの間にか止み、傘を片手に俺は帰路に着く。
いつもの並木道をノソノソと歩き空を見上げれば、広がる青空に光る虹。
周辺を歩く中学生共が綺麗だと騒ぎ、スマホを向けていやがる。
『キラキラと輝く七色の虹を眺め、ふっと横に目をやるとそこには満面の笑み浮かべた君。空に輝くそれよりも美しいものがあるのだと、俺は初めて知った』
不意に浮かんだその文面に横に目をやるが、華が舞うような笑顔はそこにない。
虹は、こんなに色がないものだったか?
もっと美しく、色鮮やかで、見るものを魅了させてくるものじゃなかったか?
他の通行人は「こんなくっきりしているのは珍しい」、「色がはっきり見えて綺麗だと言っているが」、俺には全然そうは見えねぇ。
目、おかしくなっちまったのか?
空を見上げてどれぐらいの時間が過ぎたのか、虹は消え去り空に浮かぶのは白い入道雲。それらも風に流されていき、跡形もなく消えてゆく。
気付けば空は茜色に変わっていたが、まだその場に立ち尽くしていた。
あいつが来てくれる訳ない。分かっていたが、この場を離れることが出来なかった。
日没を迎え、周辺が薄暗くなってきた。
そこでようやく手にしたのが、スマホだった。迷惑だと分かっていたが、一度だけ電話をかけてみる。
ずっと鳴る呼び出し音。以前送ったメッセージが未だに未読表示されていることから、一つの現実を受け入れる。
俺はブロックされるほど嫌われた。その現実を。
ようやく足が動いてくれ歩いて行くと、そこは夜にも関わらず明かりの一つもない自宅。鍵を開けてで家に入ると、ガランとした殺風景なリビングで俺の帰りを待っているのなんて誰もいない。
そうだよな。
暑い中に長時間居たせいか、頭が割れそうに痛く口の中はカラカラ。水分を摂らないといけないと分かっているが、俺はソファに体を預け、ただ目を閉じる。
別に良いだろう? 前に戻っただけ。俺は一人で生きていくと決めた。今更、何を感じるってんだ?
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