.
角名side
スマホのロック画面の付け消しボタンを、数秒おきに親指で押していた。
…あと五分で、約束の九時だ。
緊張で速くなった心臓を落ち着かせようと、何度も大きく息を吐く。
外に漏れ出た息は、凍てつく夜空に白い雲を作って、そのまま空気に溶けていった。
「…お待たせ、倫太郎」
オレンジ色の街灯に照らされた(名前)は、羽織っているダウンコートのポケットに手を入れて、俺と目を合わせた。
「(名前)…来てくれたんだ」
「まぁ、一応」
俺たちは、宿裏の駐車場にある横長のガードポールに、並んで腰をかけた。
「…話したい事って、何」
(名前)は足元を見ながら俺にそう問いかけた。
「…あの、さ」
素直に。正直に。
拗れて捻れて脆くなった糸を、優しく解きほぐす様に。
「…今までごめん、(名前)。中学の卒業式からの事、ずっと謝りたかった」
驚いた様に勢いよく顔を上げる(名前)と目が合う。
そのまま、俺は続けて口を開いた。
「俺のくだらないヤキモチから、全部崩れ始めたんだ。
(名前)が他の男と仲良くしてるのを見て、勝手に嫉妬して。(名前)がどう思うかとか考えずに、独りよがりな行動して。
…俺、マジで最低だよな」
俺は今、どんな顔をしているのだろうか。
本心を話すのがこんなにも怖い事だなんて、思いもしなかった。
「だから、(名前)が俺の事避けるのも、着信拒否するのも、冷たく当たるのも…全部当然の結果だって思ってる」
視界が水面みたいに揺れて、ピントが定まらない。
「…また、元の関係に戻りたいなんてもう望まないからさ、これだけは伝えたかったんだ」
嗚呼、なんでだろ。
本心だったはずなのに、本心にしたはずなのに。
なんで、涙が出てしまうんだ。
.
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!