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夢主side
倫太郎の泣き顔を見るのは、初めてだ。
嗚咽混じりの声で謝る倫太郎は、俺の心を痛めつけるには十分だった。
俺は最低な事をしていたと、改めて分からされた。
自分で想像しているよりも、他人が受け取る悲痛は壮絶なものなのだと。
勝手に被害者面をして、感情的になって。
俺が後悔して嫌っていた自分よりも、相手から見た俺はもっと醜かったのだと気づいた。
「…また、元の関係に戻りたいなんてもう望まないからさ、これだけは伝えたかったんだ」
そんなに辛そうな顔して、そんな悲しいこと言うなよ。
その言葉が嘘だって、バレバレなんだよ。
中3の冬のあの時、倫太郎が俺にしてくれた様に、俺は倫太郎の頬を撫でた。
涙を溜める倫太郎の瞳は、俺だけを映していて。
「そんなの、俺はヤダ。
…元の関係に戻りたいって、望んでよ」
そんな倫太郎に、俺は最大限の愛おしさを含んだ微笑みを向けた。
「(名前)…俺」
「…うん、何」
「俺、また(名前)と仲良くしたいっ…。
連絡もたくさん取りたいし、たくさん笑い合いたいし、たくさん触れたい」
「うん、うん」
喉が閉まる感覚と、目頭が熱くなる感覚が俺を襲う。
冷えた頬には、一筋の温もりが伝っていた。
俺もだよ、倫太郎。
俺もずっと、中学の時からずっと。
◻︎
中学の入学式の日。
俺は取り敢えず、早く友達を作りたかった。
友達がいれば、嫌いな学校も辛くないから。
誰でも良くて、前の席に居た奴に声をかけた。
それが倫太郎だった。
倫太郎は静かだけど面白い奴で、一緒に居て楽しかった。
バレー部だと聞いた時は、こいつは俺の親友になるのだと言う感覚が頬を緩ませた。
でも、いつからだっただろうか。
親友という関係では物足りなくなっていた。
倫太郎が俺以外の奴と笑い合ってるのも、手が触れ合うのも、仲良くなるのも嫌で仕方がなかった。
無意識に嫉妬心が芽生えて、その度にイライラして。
それが恋だと気づくのに、あまり時間は要さなかった。
“倫太郎に恋をしてしまった。”
そう確信してから、俺は倫太郎と距離を置こうと思った。
男が男を好きになるなんて、周りから見たら気持ち悪いだろうから。
恋愛感情を持たれてると倫太郎が気づいてしまったら、今の関係が壊れてしまうと思ったから。
だから俺は、倫太郎が接触を求めてくる度に拒んだ。
歯止めが効かなくなる前に、これ以上好きになってしまう前に、と。
でも、拒めば拒むほど、倫太郎との時間も接触も増えてしまって。
放課後、俺ら以外誰も残っていない教室に残っていた時は、生き地獄の様だった。
「(名前)いい匂いするね、可愛い」
やめろ。
「本当に可愛い、食べちゃいたい」
やめろよ。
「別に、なんもないよ」
そうやって微笑まないでよ。
これ以上、好きにさせないで。
この気持ちが止められなくなってしまうから。
そう言われた後、倫太郎の顔を直視できなくて、一瞬目を逸らした。
気づけば、倫太郎の顔は鼻が触れ合うとこまで近づいていて。
理性が限界を迎えていたのだろう。
反射だった。
倫太郎の胸を押して、避けてしまった。
うわ、最悪。
避けなければ、キスしてたのかな。
倫太郎、キスとか誰にでもするタイプなのかな。
それとも、倫太郎も俺の事を。
色々なことが一気に起きすぎたせいか、そう思った後からは、あまり覚えていなかった。
ただ、繋いだ倫太郎の手の温かさが俺の体温を上げていく感覚だけが、鮮明に残っていて。
いつものベンチに座った途端、焦りが込み上げてきた。
思い切り拒んでしまった事を思い出して、確実に嫌われてしまったと思った。
だから
「…倫太郎、ずっと一緒にいてくれる?」
まるで強い呪いをかける様に、何があっても俺から離れられない様に。
俺は倫太郎の瞳に問いかけたんだ。
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