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教室は静まり返り、鉛筆の音だけが響いていた。爆豪はテスト用紙を前に、額に汗を滲ませながらも平然を装っている。
体は40度近い熱で火照り、呼吸も浅い。それでも、誰にも悟られたくなかった。
「…こんなんで止まれるか…」
自分にそう言い聞かせ、鉛筆を握る手に力を込める。
胸の奥から込み上げる吐き気を、爆豪は必死に押し込んだ。
喉の奥まで上がってくるのを、歯を食いしばって口の中に溜め、どうにか飲み込む。
顔は真っ赤に熱を帯び、視界も少しぼやける。
切島:「かっちゃん、大丈夫か!?顔真っ赤だぞ!」
上鳴:「先生呼んだ方がよくね!?ヤバそうなんだけど!」
耳郎:「息、荒くない?」
八百万:「呼吸が苦しそうです…!」
爆豪は唇を噛んで、短く答える。
「うるせぇ…大丈夫だ…」
でも、鉛筆を持つ手は震え、文字がかすれていく。
そのとき、静かに近づいた相澤先生が爆豪の肩に手を置いた。
「爆豪、やめろ。もう十分だ」
爆豪は一瞬、止まった。
次の瞬間、気が抜けて体の力が一気に抜けた。
抑え込んでいた吐き気が堰を切ったようにこみ上げ、相澤先生の服に溢れてしまう。
「うっ…す、すみません…っ!」
爆豪は目を伏せ、息を荒げながら小さく呟く。
恥ずかしさと申し訳なさで胸が締め付けられ、息がどんどん乱れていく。
「はっ…はぁ…っ…! すみ…ま、せん…!」
呼吸が浅くなり、過呼吸の波が押し寄せる。
手が震え、視界が白く霞む。
切島:「かっちゃん!!落ち着けって!!」
上鳴:「先生!やばい、マジで意識飛ぶ!!」
耳郎:「呼吸が速すぎる!」
八百万:「救護室に…早く…!」
相澤先生は爆豪の肩を押さえて落ち着かせようとするが、もう呼吸は整わない。
そして——
「っ……!」
爆豪の体がふっと崩れ、意識が遠のく。
相澤先生はすぐに腕を差し伸べ、そのままお姫様抱っこで抱き上げた。
「みんな、道を空けろ!」
教室がざわめき、仲間たちが急いで通路を開ける。
相澤先生は真剣な表情で爆豪をしっかり抱え、救護室へと向かう。
腕の中の爆豪はまだ浅い呼吸を繰り返していて、顔は赤く、額には汗が滲む。
熱と疲労で体が重く沈んでいくのを、相澤先生は腕の力で支え続けた。
「しっかりしろ、爆豪。あと少しで救護室だ」
抱えられながら、爆豪の喉が微かに動いた。
でもその直後、口元を押さえる間もなく、また吐き気が込み上げた。
相澤先生の胸元に、温かいものが零れ落ちる。
「……ったく、無理しすぎなんだよ。」
相澤先生は小さく呟きながら、止まらない爆豪の背を優しく支えた。
⸻
静かな救護室。
消毒液の匂いと、窓から差し込む柔らかな光。
真っ白なシーツの上で、爆豪はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりした視界の中、天井が見える。
頭が重く、喉は焼けるように乾いていた。
「……どこだ、ここ……?」
掠れた声が漏れた瞬間、すぐ横から静かな声が返る。
「やっと起きたか、爆豪。」
相澤先生が椅子に腰をかけ、腕を組んでいた。
髪は少し乱れているけど、その目はいつも通り冷静だ。
爆豪は一瞬、目を逸らした。
「……すみません。テスト中、やらかして……」
相澤先生は小さくため息をつき、淡々と答える。
「謝ることじゃない。限界まで我慢してたのは見てた。むしろ無理しすぎだ。」
「でも……みっともねぇとこ見せた……」
「お前が倒れるほど頑張ってるのを、誰も笑わねぇよ。」
静かな声で言いながら、先生は冷たいタオルを額に乗せる。
ひやりとした感覚に、爆豪は少しだけ目を閉じた。
そのとき、ドアが勢いよく開く。
「先生っ!爆豪の様子どうですか!?」
切島が飛び込んできた。
その後ろに上鳴、八百万、耳郎も続く。
切島:「かっちゃん…!良かった、マジで…!」
上鳴:「死ぬかと思ったっつーの!!」
耳郎:「ほんと、びっくりしたんだから…」
八百万:「少しでも顔色が戻って本当に良かったです…!」
爆豪は照れ隠しのようにそっぽを向きながら、かすかに笑う。
「うるせぇよ…そんな大げさにすんな……」
切島:「でも本当に良かった。無理すんなよ、かっちゃん。」
「……あぁ。悪かったな、心配かけて。」
相澤先生は立ち上がり、静かに言った。
「もう少し休んでから帰れ。しばらくは無理するな。わかったな?」
「……はい。」
教室での騒がしさとは違い、救護室は穏やかな空気に包まれていた。
窓の外では風が木々を揺らし、爆豪の頬をそっと撫でる。
「…悪かったな。心配かけて。」
「それぐらい全然いいって!」切島が即答する。
その言葉に、爆豪の口元が少しだけ柔らかくなる。
ほんの一瞬、いつもの勝気な顔じゃなく、穏やかな表情。
窓の外から入る風がカーテンを揺らし、部屋の空気を優しく撫でた。
爆豪はその風を感じながら、目を閉じる。
――戦うことも、無理を張ることも大事だ。
けど、頼れる仲間がいるってのも悪くねぇ。
そんな思いが、胸の奥に静かに広がっていた。
⸻
翌日。
放課後の職員室。
相澤先生はデスクの前で資料を整理していた。
そこに爆豪が現れ、頭を下げる。
「昨日は…迷惑かけました。」
「もういい。熱も下がったんだろ?」
「はい。けど…またあんなことになったら…」
相澤先生はゆっくり顔を上げ、静かに言う。
「お前が限界まで踏ん張るのはわかってる。だが、ヒーローは“倒れるまで頑張るやつ”じゃなく、“生きて助けるやつ”だ。」
その言葉に、爆豪はハッとする。
先生は立ち上がり、ドアの方を指さした。
「行け。仲間が待ってる。」
廊下に出ると、切島たちが笑いながら手を振っていた。
切島:「かっちゃん!今日はちゃんと飯食って帰るぞ!」
「……チッ、わーったよ。」
そう言いながらも、爆豪の口元には微かな笑みが浮かんでいた。
夕暮れの光が差し込む廊下を、仲間たちの笑い声が響いていく。
⸻
数日後。
爆豪はすっかり熱も下がり、ようやく体育の授業に復帰した。
グラウンドには秋の風が吹き抜けていて、クラスのみんなも久々に全員揃った雰囲気に笑顔を見せていた。
爆豪もストレッチしながら「やっと動けるぜ」と小さく呟く。
その時、ふと腹のあたりに鈍い痛みが走った。
「……ん、ちょっと張ってんな。」
小さく顔をしかめたその瞬間――
「かっちゃん!? また具合悪いのか!?」
真っ先に駆け寄ってきたのは切島。
「えっ、熱とか残ってるんじゃ…!?」
八百万が心配そうに覗き込む。
「爆豪くん!無理しない方が!」
麗日まで駆けつけ、上鳴と耳郎も慌てて集まってくる。
「え!?マジで!? 救護室呼んでくる!?」
「水持ってくる!」
一瞬で周囲がざわつき、爆豪の周りには人だかり。
爆豪は目を見開いて、顔を真っ赤にした。
「ちょ、ちょっと待てお前らっ!!ただ腹が痛ぇだけだっての!!」
「でも前も“平気だ”って言って倒れたじゃん!!」
「そうだよ!無理すんなって!」
「うるせぇっ!!今度はほんとに平気なんだよ!!」
爆豪は耳まで赤くして叫ぶ。
それでも誰も引かない。切島が真剣な顔で言った。
「かっちゃん、オレらもう騙されねぇからな!ちょっとでもしんどかったらすぐ休め!」
「……だから!痛ぇだけだって言ってんだろが!!」
爆豪は顔をそむけて、口の端を引きつらせながら呟く。
「……ほんっと、お前ら過保護すぎだっつの…」
相澤先生が少し離れたところから腕を組んで見ていた。
「…まぁ、それだけお前が心配されてるってことだ。素直に感謝しとけ。」
「感謝なんかすっかりしてねぇ!」
と言いながらも、爆豪の声にはどこか照れが混じっていた。
その後、みんなに囲まれながら軽くランニングを始める爆豪。
走りながら小声でぼやく。
「まったく、これじゃどっちが病人だかわかんねぇな…」
けれど、横で並走する切島が笑顔で言った。
「元気そうでよかったよ、かっちゃん!」
爆豪は小さく鼻で笑って返す。
「……あったりめぇだバカ。」
風が吹き抜け、笑い声がグラウンドに響く。
もう爆豪の顔には、すっかりいつもの強気な笑みが戻っていた。
💥おわり💥