テラーノベル
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「レオン! ……あなた、大丈夫なの?」
大広間で見た時は遠目だったから気づかなかったけれど。目の前の彼は、以前会った時より明らかに痩せていた。
「あはは」
レオンは軽く肩をすくめて笑う。
「倒れそうなくらい忙しいけどね。まあ、ぼちぼちってところかな」
「ぼちぼちって……」
「大丈夫だよ」
そう言って、ぱちりとウインクしてみせる。けれど、その笑顔の奥に疲労が滲んでいることくらい、私にも分かった。
父である国王を失い、王妃を裁き、崩れかけた王国を立て直そうとしている。
まだ、たった十八歳。彼一人が背負うには、あまりにも重すぎる。
「……」
「そんな顔しないでよ」
レオンが少しだけ距離を詰め、私にだけ聞こえる声で囁いた。
「ねえ、バイオレッタ」
「なに?」
「少しだけ、夜風を浴びに行かない?」
***
賑やかな祝賀会の大広間を抜け、誰もいないバルコニーへ出た。
ひんやりとした夜風が、火照った頬を心地よく撫でていく。眼下には無数の灯りに彩られた王都の夜景が広がっていた。
レオンは黙って、その景色を見つめている。
「……どうしたの?」
声をかけると、彼は王都を見下ろしたまま、口を開いた。
「王国評議会から、正式な要請が来たよ」
「要請?」
「父上の跡を継いで――正式に王位へ就いてほしいってね。……僕は、受けるつもりだ」
迷いのない声だった。私は一瞬だけ目を見開き、それから、ふっと笑った。
「……やっと、決心がついたのね」
「……覚えていてくれたんだ」
「当然でしょう?」
彼をまっすぐに見つめた。
「あの夜、言ったじゃない」
――私は、レオンを王にするわ。――でも、王になると決めるのは、あなた自身よ。
「……うん」
「王妃を倒しただけじゃ、本当の平和は来ない。空いた玉座を巡って、また争いが始まる」
眼下の王都へ視線を向ける。
「だから──あなたが王になって、この国を導く必要があると思ってたわ」
「……最初から、そこまで考えてたの?」
「当然でしょう?」
「はは……やっぱり、バイオレッタには敵わないな」
目を細めると、私へ向き直った。
「……王になる前に、どうしても、君に聞いておきたいことがある」
「私に……?」
「うん」
レオンは歩み寄り――私の目の前で、片膝をついた。
「……え?」
差し出された手が、私の指先を取る。
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「ちょ、ちょっとレオン!? なにして――」
手の甲へ、そっと口づけが落ちた。
「バイオレッタ」
レオンが顔を上げる。
「僕の王妃になってほしい」
「…………っ!?」
一瞬、頭が真っ白になった。
「……はあっ!?」
思わず声が裏返る。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなた、私がアレクの婚約者だって知ってるでしょう!?」
「もちろん知ってるさ」
「だったら――」
「だから、無理に奪うつもりはないよ」
「……え?」
レオンは、私の手を握ったまま、まっすぐに私を見つめた。
「でも……それが家同士で決められた婚約なのも、僕は知ってる。だからこそ、聞きたいんだ。バイオレッタは、どうしたい?」
言葉に詰まった。
「離れていた間……一度くらい、僕のこと考えてくれた?」
「……レオン」
「それに……あの時の約束、覚えてる?」
「約束……?」
「ひどいなあ……忘れちゃったの?」
あの夜の記憶が――鮮明に蘇った。
***
王都へ向かう直前。月明かりが静かに差し込む執務室。私は、レオンを抱きしめた。
そして、彼の頬に手を添え、ほんの一瞬だけ、唇を重ねた。
『僕のこと、真剣に考えてよ』
『……無事に仕事を終えられたら、考えてあげなくもないわ』
『本当に?』
『ええ。だから……ちゃんと無事に帰ってきなさい』
レオンは、吸い込まれそうな瞳で私をまっすぐに見つめてきた。
『好きだよ』
そしてレオンの方から、愛おしむようにそっと唇を重ねてきた。最後に、黄金の転移魔法の光に包まれながら、いつものように笑った。
『王都を落としてくるよ』
***
「……ちゃんと、帰ってきたよ」
「……え?」
現実へ引き戻される。レオンが、少し照れたように笑っていた。
「無事に仕事を終えたら、考えてくれるって言ったよね?」
「……っ」
そうだ。私は確かに――約束した。
「僕の気持ちは……あの時から、何一つ変わっていないよ」
「レオン、私――」
コメント
1件
第100話おめでとうございます!バルコニーでの求婚、夜風と王都の夜景の雰囲気がすごく素敵でした。何より「あの夜」の約束をちゃんと回収してくる構成にぐっときました。「考えてあげなくもないわ」という台詞が、バイオレッタらしくて大好きです。アレクとの婚約を無理に奪わず「君はどうしたい?」と聞くレオンの誠実さも良かった。18歳で国を背負う彼の疲労と、それでもまっすぐな眼差しに胸が熱くなりました。次も楽しみにしています!