コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
頭上で並ぶ提灯。
子供たちの笑い声と、屋台からの匂い。
暮れ始めた遠くの空は赤く染まってる。
「もときー、こっちー。」
地元のお祭りなら、そこまで気を使わなくていいかな。
そう思って、みんなで来た僕の地元。
フェルが懐かしそうに、匂いを嗅いだ。
『昔と変わらんな。』
「変わったら困るよ。僕が寂しくなっちゃう。」
あの頃は必死で登った階段も、物凄く大きく見えた狛犬も、大人になるとそうでもなくて。
でも、昔と変わらなくて。
「屋台と言えば!」
「かき氷!」
「わたあめ!」
屋台突撃して行く僕らを、フェルが見守る。
『にいちゃん、この甘いの何⁈』
「おまっ、頭の上でわたあめ喰うな!」
「だから、かき氷のスプーン…。」
『もう、まだ言ってるのね。』
側から見たら、不思議だろう。
二人は独り言を言ってるようにしか、見えないはずだから。
でも、それを気にしないのが、ここのいいところ。
わーわー言いながら、みんなで歩いてきて。
『我と二匹はここまで。行って来い。』
昔と同じように、狛犬の横にフェルが座る。
「いってきます。」
『気をつけて。』
『早く戻ってこいよー。』
三人で、鳥居へ向かって歩き出す。
「そうか、神域だから。」
もときは、何かに気が付いたみたい。
「昔ね、フェルに聞いたら、神様が違うからだって言われた。この鳥居が境目なんだって。」
三人で、鳥居を潜る。
昔は分からなかった空気が変わる感覚が、今なら分かる。
ゆらりと空気が揺れて。
大きなオオカミが現れる。
『久しいな、外の神に愛された子よ。』
「あ、フェル二号!」
ちっちゃい頃に会った!
『真神だ。二人は?』
「僕の大事な人!」
もときもわかいもびっくりしてる?
「りょうちゃん…?」
「日本の神にも知り合いが…?」
「昔、ね。」
側に寄って、その毛並みを撫でる。
懐かしいなぁ、お参りの間、ずっと側にいてくれたの。
『そうか、お前にもそんな人が出来たか。』
「うん、もうそんな歳になった。」
『ならば、もう平気だろう。』
真神が、遠吠えをする。
長く響くその声に、空気が震える。
『お前か、久しいな。』
空から降りて来たのは、髪の長い…少年のような、ご年配なような…なんとも不思議な存在で…。
「ちょっと、りょうちゃん?次から次に神様召喚しないでくれる?」
「どうなってんの、涼ちゃんて。」
「僕が知りたい。」
明らかに神様。
いや、どっからどう見ても。
『済まないが、少し時間をくれ。』
その神様が手を振った瞬間。
僕の周りの、世界が、凍り付いた。