「なんだよ急に!、」
突然の俺からの感謝に、なつは驚いたように照れたように、嬉しそうに口元を緩めた。
そんな彼に俺は『なんでもない』と悪戯をする少年のような声色で答えた。
もう二度とこれ以上壊れてほしくない。ここだけは何があっても守りたい。
これさえも崩れてしまったとき俺はー。
そこまで考えて首を横に振る。
そうならないようにも守らなければいけない。
両親のときのような油断を、気の緩みを俺はもうしないように。
この場所だけは奪われたくないから。
「これから、らんの父親の葬式の予定の確認と、…らんが望むなら父親の顔を見に行こうと思ってるけど」
こと…
空になったマグカップを机に置く音と共に静かにいるまが口を開いた。
少しの申し訳無さを胸に俺は何も言葉を発さないまま頷いた。
お父さんの顔を見たとき、俺は何を思うだろうか。今までの思い出を胸に涙を流すだろうか。それとも俺はあの時の恐怖をまた思い出すのだろうか。取り乱さないでいられるのだろうか。
またいるまたちに迷惑を掛けてしまわないか。
会うのは怖い。未だ現実味を帯びないお父さんの死を現実なんだと迫ってきそうで。
どんな顔をして会えばいいのか。何を思えばいいのかなんて何もわからない。
怖い。
「俺は絶対に会ったほうがいいと思う。火葬してしまえば、もう…もう二度と顔を合わすことができない。らんの中での最期の父親の姿が襲われて倒れた姿で良いはずない。」
俺の心情を察したのか、なつはヨーグルトを運ぶ手を止めて真っ直ぐとした瞳で言った。
行かなかったら、それはいつか大きな後悔になる。それは俺だってわかってる。でも
「たった一人の父親を失ったんだから、泣くのは当たり前。苦しくても悲しくても泣いてでもちゃんとお別れしなければ、きっと前には進めない。 」
「泣いたらまた泣き止むまで何時間でも付き合ってやるしな。」
「だから大丈夫」そう慰めるように二人は俺の背中に手を回した。
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