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✦『傘を借りた日、距離が近づいた。』
(高校生しんのすけ × かざまくん)
チャイムが鳴って、教室が一気に騒がしくなる。
放課後の廊下から、人の笑い声と靴音が聞こえてくる。
かざまくんはバッグに教科書をしまってから、
ふと窓の外を見た。
——ザーッ。
「……うそ。降ってきたの?」
さっきまで晴れてたのに、まるで意地悪のような土砂降り。
傘はない。
今日は朝から快晴だったせいで油断していた。
(コンビニまで走る……?いや、制服濡れたら絶対風邪ひくし……)
頭を抱えていると、後ろから気配がする。
「かざまくん、雨宿り?」
振り返ると、しんのすけが傘を肩にかけながら立っていた。
その傘、深緑で落ち着いた色。
彼には珍しく“普通”のデザインだ。
「……その傘、持ってたの?」
「持ってたっていうか、オラの家のやつ。
今日はなんか雨の気がしたんだよね〜。」
さらっと言うしんのすけに、かざまくんはため息をつく。
「直感で雨を言い当てるなよ……。」
「で、どうすんの?濡れて帰るの?」
「……帰れないよ。」
その瞬間、しんのすけはニッと笑う。
「じゃ、オラの傘、貸してあげる。
かざまくんは濡れたら風邪ひくタイプでしょ?」
「え、じゃあしんのすけは?」
「オラは濡れても平気〜。ほら、こう見えて強いから。」
冗談めかすその声が、やわらかくてあったかい。
そのくせ、しんのすけは傘をぐいっと押しつけるようにかざまくんへ渡す。
(……濡れて帰る気、ゼロじゃん。)
「……じゃあ、一緒に入ればいいじゃん。」
かざまくんは小さく言った。
しんのすけの手がピタッと止まる。
「え?」
「で、でも……その……ひとりで濡れて帰らせるなんて……いやだから。」
「かざまくん、それ絶対オラの方が嬉しいやつ。」
しんのすけはにやにやしながら、
傘を広げてかざまくんの頭の上にそっと差し出した。
傘に入ると、距離が一気に縮まる。
肩が触れそうで、心臓の音が大きくなる。
「……近い。」
「え?もっと近づく?」
しんのすけが悪戯っぽく覗き込んでくる。
「ち、近づくな!!」
赤くなるかざまくんに、
しんのすけはふっと優しく笑った。
「かざまくん、雨の日ってさ。
オラ、前より君を独り占めできる気がするんだよね。」
「……なんでそんなこと言うの。」
「本音だから〜。」
雨音が強くなる。
ふたりは傘の下、肩を並べて歩き出す。
かざまくんの耳は真っ赤で、
しんのすけはその横顔を、こっそり見つめ続けていた。