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それは、ある春の話。
桜が散り、川に流れる花びらが見頃となった時期に、花見がしたいと思うように。
後藤と、付き合いたいと思ってしまった。愛し合いたいと思ってしまった。
「…阿保みたい」
実際問題阿保であった。20年近く拗らせ、ようやく落ち着かせることができたこの気持ちを、どうしようもなく蘇らせたのは阿保に違いない。とんでもなく惨めだ。
川に落ちた、或いは水たまりに落ちた桜の花びらを拾い上げるように自分の気持ちを持ち上げてみる。それは、愛と矛盾が溶けて交わったどうしようもない「恋」であった。ただ、恋に矛盾は必要不可欠なのかもしれない。知らない。こいつのすせいで、20年くらい恋とはご無沙汰なのだ。
「なんやねん、アホみたいって。…俺の顔がか?」
「ちゃうわ、阿保」
そうだ。そうだった。俺は今、後藤と、サシで飲みに来ているのだ。コンビという間柄、どうも気恥ずかしくて、普段プライベートでは会わないし遊ばないのだが、今日は特別。後藤に誘われたから、飲みに来たのだ。
サシ飲みできている時点で好意がないわけではない。コンビを組んでいる時点で好きじゃないわけがないのだが、その感情は恋愛感情ではなく、友情や愛情、それ以外の何かで、それが時に嬉しく、時に虚しいのだ。
「…なんか虚しいん?」
「別に」
声に出てた。黙れ、高校以来の、20年来の相方の好意に気づかないくせに、小声で落とした呟きに気づくな。そして俺、もっと黙れ。
「今日、飲みに来れてよかったわ」
「…そうなん」
「そう。ほんまは桜が散る前に花見とかしたかったんやけど」
「花見ね…」
「花見。ええやろ、2人で花見…は、ちょいキモイか」
キモくないって即答できればよかった。妙に照れくさいというか、言葉に詰まるというか。原因は2人きりだからなんだろうけど、せっかくお酒を飲んでいるから、お酒のせいにしよう。酔っ払ってるせいで意識もギリギリで、呂律も回らないってことにしよう。
「あのさ、福徳」
そういうと後藤は、ぴーんと背を伸ばして、神妙な面持ちで話し始めた。
「今日、来てくれてありがとう」
「…それだけ」
「あと、これからも宜しく」
「…うん、いや…はい」
「それで、よかったら」
次の言葉が聞こえるまでが永遠のように感じられた。よかったら、ときているから悪いことじゃないんだろうけど。
「俺と、付き合ってください」
「は」
「…嫌やったら、別に」
嫌じゃないって即答できたらよかった。お酒のせいにしてる場合じゃなかった。
「…嫌と、ちゃう」
「ほんまに、!?やった…」
あーうそうそ。うわ、まじか。こんな展開予想してなかった。俺が告って失敗することしか考えてなかった。今、頭の中が真っ白で、同時に顔が真っ赤なのもわかってめちゃくちゃ恥ずかしい。
「あかん、めちゃくちゃ嬉しい…」
「…俺も」
「え、まじ?」
ダメだ、お酒のせいだ。酔いが回って言葉が制限できない。もともと、自分が告白する予定だったから、言葉が出やすいように酒もいつもより多く入れていたんだ。
「…後藤のことめっちゃ好き」
「…うそ、なにこれ、今までと比べもんにならんくらい甘えてくれるやん…」
「すき…」
「…かわいいぃぃ」
そこから記憶がない。そして現在後藤の家。死ぬほど頭が痛い。二日酔いが確定して、少し憂鬱だ。
…後藤の家?
そう思って隣を見てみると、後藤が寝ていた。顔面が強くてこれまた死んでしまいそうだ。
幸せを噛み締めながら今日という1日を過ごそうと思う。そしてこれからの人生を。その幸せは、頭の上に乗った花びらくらいの、小さな幸せだと思うけど。
コントと、お笑いと、彼と一緒に。