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授業に戻ってからの染谷さんは本当にいつも通りだ。何もなかったような涼しい顔で授業をこなし、先生に当てられれば完璧な答えを言う。時折窓の外を眺めては小さくため息をついてからまた黒板を見る。どうしてあんなに自然に振る舞えるのだろうか。俺はまだ混乱しているしわけがわからないというのに。つい染谷さんの柔らかい感触と爽やかな洗剤の匂いを思い出しては自分を恥じる。ああ、また血を吸ってもらえたらまたあんなに近くに染谷さんが来るのだろうか。

「おい三吉。ここ答えろ。」

「え、あ、はい。あ。。。すみません聞いてませんでした。」

「授業に集中しろ〜。」

「すみません…。」


終礼が終わってもまだ俺はぼーっとしていて、膝を机にぶつけた。教室を出るときも扉にぶつかり、階段でコケ、靴箱にもぶつかった。

「三吉くん。」

「んえ?あ、染谷さん。」

これはとんだタイミングで染谷さんに声をかけられたものだ。恥ずかしいところを見られていないかと懸念しながら振り返るが染谷さんと目があってしまってまた靴箱に体を向ける。

「今朝のこと引きずってるんでしょ。そんなんじゃいつかばれる。」

「あ、ごめん…。」

「ねえ、見せたいものがあるの。ついてきて。」

商店街を染谷さんと並んで歩く。こういうときに何を言えばいいのかわからないし染谷さんも俺と話す気はあまりないのだろう、二人揃って無言だ。

「そこのカップルさんたち!美味しいコロッケあるよ〜。」

カップルかあぁ。染谷さんとカップルかあぁ。少し嬉しい。

「ねえ染谷さん、俺等カップルに見えるk…。すみません。」

怖いよお。染谷さんに睨まれたあ。睨んだ顔も可愛いけど。ふわりと美味しい香りが漂う。コロッケか。あ、いいことを思いついた。

「ちょっと!三吉くん!どこ行くの?」

コロッケっていいよなあ。ほんとに。

「染谷さん!コロッケ食う?いらないなら俺が2つもらうけど。」

「コロッケ。。。。」

それにしても意外だったな。染谷さんがコロッケにあんなに食いつくとは。公園のベンチに並んで、またもや無言でコロッケを食べる。染谷さんはコロッケが好き、心のメモに永久保存しておこうっと。

「…美味しい。」

「そっか。俺もコロッケ好き。」

「な!別にコロッケが好きなんて言ってないじゃん!」

「ごめんってw。そんなに怒んないでよ。ほっぺにコロッケ付いてるし。」

何も考えずにほっぺのコロッケを取ってから気づく。

「あ!ごめん!えっと、おれ弟と妹いて、その長男だからつい、みたいな感じで。全然そういう意味じゃないから!」

焦って言い訳をしながら恐る恐る染谷さんの顔を覗き込む。嫌われたかな。けれど染谷さんは怒るどころか赤面して恥ずかしがっていた。

「え、」

「三吉くんがいきなりカ、カップルみたいなことするから…。」

え。可愛すぎんか?

「もういいでしょ!見せたいものがあるって言ったの忘れてないよね?」

そう言えばそんな話だったか。染谷さんは食べ終わったコロッケの上を四つ折りにしてゴミ箱に捨てると公園の真ん中の方へ歩いていった。

「三吉くんにはあれが見える?」

彼女はちょうどすべり台の上のあたりを指さした。

「見えるよ。すべり台でしょ。」

「…はぁ。それじゃない。見えてないのね。」

再びベンチに戻ってきた染谷さんは今度は俺の手を容赦なく握って同じところへ歩き出した。何がなんだかわからず俺はつい染谷さんの手を力強く握り返してしまう。

「待って染谷さん、手。。。。」

「ねえ、今度は見える?」

ああ、そういうことか。さっきは見えていなかったが今度ははっきりと見える。すべり台の上になにか奇妙な生物がいるのだ。水に様々な色の絵の具を垂らして混ぜたかのような色の半透明なそれは禍々しい呪いのかかった半液体のようにぐねぐねと動いていた。

「…なんだあれ。」

「まあ見てて。」

そう言うと染谷さんは素早い動きで物体との距離を詰め、同時に自らの影から長い槍のようなものを作り出して物体に向かって思い切りに投げた。まっすぐ飛んだその槍は全身の毛穴を逆なでするような悲鳴とともに物体を貫いた。しかしそれだけではまだ足りず、染谷さんはまたも影から、今度は包丁のような刃物を取り出し、何回も何回も、むごたらしいほどに物体を刺す、刺す、刺す。しばらくすると物体は小さい肉片と血液だけの姿となり、空気中に蒸発していったように見えた。一息つくと染谷さんは、動けずにいる俺が座るベンチへ戻ってきた。力の抜けた膝はもう俺の体重を支えきることはできず、がっくりとベンチに倒れ込むかのように座る。染谷さんは更に近づき、片膝を俺の足の間にあげ、ベンチの背もたれに手をついて俺の顔を覗き込む。

「ねえ、いいよね。」

それはもはや質問ではなく、俺が返事をする間もなく染谷さんはその小さな尖った歯を俺の首筋にたてる。食い込んだ歯から自分の血液が抜けていくのを感じる。指先がピリピリとしてめまいがする。そろそろ貧血で倒れそうだと思ったら、食事が終わったのか染谷さんが俺の首筋をぺろりとひとなめした。

「っひょぁ!」つい奇声をあげてしまう。

「変な声。」

「誰のせいだよもう!」

少し離れて染谷さんは俺の顔をしげしげと観察する。

「三吉くんの血ってなんでか他の人のより美味しいんだよね。」

他の人の。仕方のないことなのかもしれないが染谷さんが他の人にもこんなことをしていると改めて知ると胸の奥にどす黒く絡まったモヤが広がる。

「染谷さんって血飲まないと死んじゃう?」

「別に。血が一番効率的なだけ。」

「じゃあさ、これからは俺だけから血を吸ってよ。」

自分でも何を言っているのかわからない。恋人でもなんでもないのに。何なら今日までろくに話してさえいなかったというのに。ごまかそうとしてなんとなく首筋にある染谷さんの歯痕をなぞる。

「だってほら、吸血鬼だってバレる心配なくなるし、安定した供給源あったほうがいいでしょ?」

染谷さんは立ち止まって少し考える。

「…分かった。そうしよう。」

俺を見上げた染谷さんは初めて笑っていた。いつもの何を考えているのかわからないような無表情もいいが笑うと天使のようにかわいいな。それに思っていたより小さいのだな。その日一日俺は今までで一番浮かれていたと思う。


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