コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その日からの俺と染谷さんの関係はとても曖昧なものだった。特に友達というわけでもなく、もちろん恋人でもない。けれど染谷さんと秘密と約束を共有しているという事実が俺達を強く結んでいた。少なくとも俺はそう思う。
「樹ぃ〜。お前最近いいことでもあったか。ニヤニヤしててキモい。」
「別に?」
染谷さんがこちらを伺う。話を聞いていたのか。まあ染谷さんからしたら吸血鬼だとバレてはいけないんだし、俺が顔に出てしまっていたりでもしたら大変なわけだ。
「樹く〜ん、最近染谷さんと話せるようになってちょっと浮かれてる?ヘタレだなあ。」
「っは?え…いや、ちげえし。」
「わっかりやす。」
なんでこいつわかるんだよ。やっぱり幼馴染って怖い。
「さっさと告っちまえよ。女の子はうじうじしてる男子は嫌いなんだよ。たぶんね。」
「お前告白したことないだろ。適当なこと言うな。」
「まあねえ。」
ほんと凌哉は気楽でいいよな。こっちの気もしらずに。いや、染谷さんが吸血鬼だと知られたは知られたで厄介なんだけど…。机に突っ伏して耳をふさぐ。
「おいおい。耳塞いだって無駄だぞヘタレくん。」
そもそも染谷さんは人間なのだろうか。もしそうでないのなら僕と染谷さんは違う生物ということになるのだろうか。なんだか今日は染谷さんの後ろ姿がいつもより小さくて遠いように見える。
いつもの公園。いつものベンチ。最近は毎日染谷さんに血を吸われている気がする。怪物はたいてい一日に一匹ぐらいだがなんだかもう慣れてしまってなんとも思わなくなった。結局あれが何なのかはわからないが染谷さんが狩っているぐらいなのだから害虫ならぬ害怪物なのだろう。血を吸われるのもだいぶ慣れた。最近は立っているれるようにまで成長したのだ
「ねえ染谷さん。なんで俺の血は美味しいの。」
「しらない。そういう体質なんじゃないの。」
まあそうか。俺達だってなんでラーメンが美味しいのか聞かれても美味しいからとしか答えられないのと同じだ。
「染谷さんって人間?」
「人間だよ。」
思っていたよりすんなりと答えが返ってくる。
「だって吸血鬼なんじゃないの?」
「吸血鬼は分類でいうと人間なの。」
それは知らなかった。まあ普通は知らない。
「どうせ『染谷さんは人間じゃないのか』とか考えてたんでしょ。」
「…。おっしゃるとおりです。」
「バカね。私は私なの。」
つま先に視線を落とす染谷さんの目の奥にはか細く、しかし確かに光るものがあった。そういう考え方ができるところも、何事もないかのようにできるところも全部大好きです、と口にできたらどんなに楽か。
「三吉くん。もう一回吸わせて。」
「なんでよ。」
「なんでも。」
従順にさっき閉めたばかりの制服の第一ボタンをまた外す。ちいさくて鋭い染谷さんの歯、薄いピンク色の柔らかい唇。こうして獲物にされているのは俺のほうだというのにどうしても染谷さんのすべてを俺だけのものにしたいと思ってしまう。深く息を吸うと染谷さんの匂いがし、耳のすぐ横で染谷さんが静かな吐息をついている。俺の伸びた腕が無意識のうちに染谷さんを抱きしめている。
「染谷さん、俺だめだ。」
「貧血?」
「うん、まあそうかも知れない。」
「座ったほうがいいんじゃない?」
「いや、もうちょっとこのままがいい。」