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必死に現状の整理を始める。
『新学期が始まり、帰りのLHRが終わった瞬間、かっちゃんと轟くんに校舎裏へ連行され、告白された。』
ん?
ちょっとよく分からないな。
もう一度整理してみよう。
『新学期が始まり、帰りのLHRが終わった瞬間、かっちゃんと轟くんに校舎裏へ連行され、告白された。』
ん???
僕は頭を抱える。
どうしよう、何一つ理解出来ない。
理解したくても視界の情報量が多すぎてただただ致命的に頭がこんがらがる。
黙ってればイケメンなかっちゃんと、
言わずもがなイケメンな轟くんの二人から同時に、 所謂、壁ドンをされるとか言うとんでもない状況は
僕の想像を絶するほどの破壊力だった。
なんてことだ。
昔はかっちゃんからよく物理的に殴られてたけど、ビジュアル的に殴られるのは流石に初めてだ。
ああああ、違う、話が脱線してた、えっと、そうじゃなくて、
え、なに、なんだっけ、かっちゃんと轟くんは僕が好き………?
好き
そうか、好きか
すき、
スキ
隙
空き
SUKI………
「………………………そそ、それは、あの…お…お友達的な、意味で…?」
「あ”?この状況でンなことあるかよボケカス」
「アッハイ、ソソウデスヨネ………」
人相の悪いかっちゃんは詰め寄るように僕に顔を近づけた。
左側だけ見ればただのカツアゲである。
しかし状況が状況なので、僕はやたらと近いかっちゃんの顔を見て、赤面すれば良いのか恐怖すればいいのか判断しかねた。
「いきなり悪ぃ緑谷。混乱してるよな」
かっちゃんの顔を見たまま身体を硬直させる僕の腕に縋る様に轟くんが絡みついてくる。
驚きすぎて目が取れた。
なんと言うかそれはすごく扇情的で、ただでさえ顔が整っている轟くんだから、
男同士の僕でさえも魅力的に感じてしまう何かがあった。
なんだこれ、どんな状況だよ
もう声も出ない。
はくはくと無意味に口を動かして轟くんを見上げる。
すると視界いっぱいに映るとろんと目尻を蕩けさせ綻ぶ轟くん。
頭が破裂するかと思った。
「その、俺と爆豪は、ずっと緑谷のことが好きで…」
「三年になったら同時に緑谷に告白しねぇかって話してたんだ」
轟くんはこてんとその丸い頭を傾げて説明した。
なるほど
「ホェ…………………………………」
なぜ???
「ハッ、その顔クソブスだな」
「緑谷はブスじゃねぇ」
「ブスだろ、目の下にゴミつけてるし」
「ゴミじゃねぇ」
どうしようツッコミが追いつかない。
次いで二人の会話も耳から耳へと流れていき、全く頭に入ってこない。
二人とも僕のことが好き?
僕のことが好きだから一緒に告白しようって?
わかった。
わかったわかった。
二人とも同じ人を好きになったから同時に告白する。
うん、何もおかしくない、わかった。
この際男同士だなんて野暮なことは言わない。
これもわかった。
好きになってくれたその気持ちは純粋に嬉しい。
これも。
でも、まさか、かっちゃんまで僕のことが好き?
僕のことをブスとまで言って罵るのに?
今までのかっちゃんを振り返る。
幼稚園生…弄られるくらいはあったけど、まだ仲良かった
小学生…虐められる
中学生…虐められる
高校…虐められてた、けど、最近はそれなりに仲良くなった…と、思う。
さっき…ボケカスって言われた。
ブスとも言われた。
しかも二回。
その上一個目はクソブス。
それってブスと判断される基準値を遥かに超えたとんでもないブスってこと?
……ダメだ、轟くんはまだしも、かっちゃんが僕を好きな要素がどこにあるのか全く分からない。
これで僕のことが好きだと突然言われてもからかわれてるとしか、…
……あああああいや、でも、かっちゃんはこんな事で人をからかわない。
ましてや轟くんも一緒なのに……っ
だとしたら本当に僕のことが好き?
本当にそんな事が起こり得るの?
二人は僕のことが好きで、
轟くんも、僕のことが好き、かっちゃんも
???
な、なんで?
なんで、二人とも、僕なんかを???
思考がぐるぐる同じところを行ったり来たりと迷走する。
思考は僕の得意分野だと自負しているけれど、今回ばかりは全く当てにならない。
「ふふふふたっ、二人は…っ、ぼぼ、僕のことがすす好き、で、おおおおお付…っき、合ぃ…………したい…って考えてる…って、こと…っ?」
なにやら会話をしていたらしい二人に、言葉尻が消し飛びそうになりながら何とか質問を投げかける。
かっちゃんの口からチ”ィ”ッ”っと爆音で発せられる舌打ちを他所に轟くんが淡々と答える。
「ああ、俺も爆豪も、緑谷と付き合いたくて告白してるんだ」
そりゃそうだよなと妙に冷静になる。
そこでふと一つの考えが脳を過ぎる。
当たり前の疑念、
もし僕がどちらかの告白を受けるとして、選ばれなかった方の気持ちはどこへ行くのだろう?
二人ともと付き合うなんて不誠実な事は出来ない。
二人も、その選択は許さないと思う。
特にかっちゃんは。
かと言ってどちらかを選べば片方が傷つく結果を招いてしまう。
大体、僕は二人を恋愛的に意識したことがない。
そもそも、なんとなく、…あの大戦後からは明白に恋愛と言うものをを避けていた。
………だとするならば二人とも断る他ない。
でも、折角告白してくれたのに
これからも二人とは友達でいたいのに
断ったら、二人とも傷つけてしまうのに
こんなことって
僕は
「ちなみに、両方断るは無しだ。」
「………………………………へぁ?」
僕の思考を見透かすような台詞を吐き捨てるかっちゃんに、情けない声が漏れ出た。
「そもそもクソナードくんはンなこと出来ねぇだろォ?」
「だから同時に告ろうつったんだ。」
かっちゃんに顎下を指でくっと持ち上げられ、轟くんに指先の自由を奪われる。
僕は二人の熱視線を浴びながら、抵抗もできず、ただただ被食者のように固まった。
肋骨をかち割る勢いで心臓が鳴り、
顔も耳も首も身体も全部熱くて茹で上がっている。
…なんか、やばい?
僕、食べられる?
「高校最後の一年、有効活用するから、全部受け止めてくれ、緑谷」
轟くんのやや体温の高い左手は、まるで僕の心に取り入るよう、じわりと熱を伝えてくる。
視線を上げると、灼熱のような双眸が、今だけはまっすぐに僕の心を溶かそうとしていた。
静かな言葉の奥に隠された熱意が、呼吸を奪っていく。
しかしこうして僕の視線が轟くんに独占されているのを、かっちゃんは良しとしない。
「テメェ、ちょっとモテたからって調子に乗ってんじゃねぇぞ」
「テメェは選べる立場なんじゃなくて、俺に奪われる立場なんだよ」
グイッと乱雑に頬を掴まれる。
怒気を含んだ声とは裏腹に艶っぽく笑う口元が目に毒で、
なのに視線を逸らすことができず、ただ呆然と見上げる。
ふと、僕を睨みつけるその目に、かつてのライバルとしての火花じゃなくて、
どうしようもない独占欲が滲んでいるのに気づいてしまって、
為す術なく胸の奥がずるりと崩れ落ちる音がした。
まさか、そんな、
いや、
つまりそれって____
「ンな訳で、今日から一年間全力で落とすから覚悟しとけよ、でーく?」
「俺もだ、緑谷。俺は男だけど、好きになって貰えるよう頑張るよ…♡」
こ、こういう時、僕の為に争わないで……??って言えばいいの…??
「ひ、ひぇぇぇ……っ」
僕は二人に追い詰められ、影で視界が暗くなるのを感じながら、
『本気で逃げなきゃ捕食されるのでは?』なんて気持ちになっていた。