高校生最後の春を迎え、あっという間に四月も半ば足早に過ぎ去っていった。
良くも悪くも、怒涛のスタートダッシュを切ってしまった気がする。
それも何故なら、僕は先日かっちゃんと轟くんに突然告白されたのだ。
先日、校舎裏にて呼び出され、『好きだ』と、
『付き合って欲しくて告白している』と、白昼堂々告げられた。
僕は見事に大混乱し、返事を返しあぐねた。
しかし二人はそんな僕をよそに、傍若無人にも僕を取り合う宣言をし、
その日から、晴れて僕の高校最後の一年間は二人の板挟みになって過ごすことが確定してしまったらしい。
なんだか二人らしいと言えば二人らしいが、 自身が当人になるのは話が違う。
わかりやすいまでにスキンシップが増えた。
やたら熱視線を浴びるようになったし、どちらが僕と昼食を取るか…と言う内容で二人が喧嘩する事もしばしば。
あの全面戦争以降、それぞれが考えを改め、僕らは明白に成長した。
少しずつ世間と僕らは変わって来ている。
それでも、お互いの関係性や性格の根底が変わったわけではない。
現状は、その枠に収まらない変貌の仕方だった。
轟くんとは前から仲良しだったけど、こんなに執着して独占欲をぶつけてくるタイプじゃなかったし、
かっちゃんも、まぁそりゃあ多少、大分、かなり、丸くなったけど、
それでも僕に対してベタベタすることなんてなかったんだ。
クラスメイトの皆も、僕ら三人のこの変わり様に気づいていない筈がなく___
___まさか本当に僕がこの二人から恋愛的な意味で好かれており、
ライトノベルの主人公よろしく引っ張り蛸にされているとは露程思ってはいないだろうが___
___上鳴くんやら瀬呂くんやらに『モテるね〜』なんて揶揄されることもある。
そんな二人に心臓の休まる間もなく目を回し、早く状況を打破したいのに
未だ結論を出せない情けない僕は、それを甘んじて受け入れる他なかった。
予鈴が鳴る。
委員長の飯田くんの号令に従い、その日の学校は終わった。
雑談だったり、鞄の準備だったりと、それぞれが発する放課後特有の雑音が鼓膜を触る。
僕はこの放課後特有の喧騒とも静寂とも取れる心地よい疲労感が割と好きだけど、
今年ばかりはそうのんびりしてられなかった。
だって授業と言う縛りが無くなった今、”彼らが”___今日は”彼”だけだけど___自由なのだ。
となると僕は絶対捕まる。
そして捕まったが最後、大抵いつも喧嘩になるんだ。
「緑谷」
「トッッッ………どろきくん…………っ?」
………ほら
僕は早速現れた轟くんにビクッと肩を震わせた。
今日はかっちゃんが先生に呼び出されて今この場に居なかったのが幸いだ。
居たら絶対喧嘩になってた。
「今日、部屋に行ってもいいか」
「エッ!?!?!」
思ったより大きな声が出た。
へ、部屋??
思わず身構える。
いや、だってそうだ、仕方がない。
たった半月ぽっきりで自覚しきってしまうほど、
クラスメイト達が薄ら僕らの様相が変わったのに気づいてしまうほど、
僕は二人から散々、いやもうほんと熱烈に愛を投げつけられているのだ。
それを彼らはお互いから僕を奪うつもりでやってるのだ。
僕は毎日その板挟みになってるんだ。
日頃の行いとはまさにこの事___
その経験を経て、そんな相手から部屋に来たいと言われてしまったら、
否応なしに余計な想像をしてしまうのも無理は無い。
「……えっ……と…なん、で……?」
轟くんをゆっくり見上げて問う。
心臓から変な音がなっている。
こんなの最悪な想像で、轟くんにも失礼だって分かってるけど、でも、でも___
「………一緒に、課題してぇ」
一瞬だけ時が止まる。
ぽそりと呟かれたその一言で全身から力が抜け、同時にとてつもない羞恥が僕を襲う。
「アッッッ、課題ね!課題課題!なんだ課題か!うん!いいよ!課題!しよう!」
咄嗟に誤魔化すように返事をした。
ウ、ウワアアアアアアアアアアア
恥ずかしすぎて爆発した。
僕は…僕はなんて想像を…ッ
アアアアア……ッ!!
「? 緑谷?」
キョトンとした無垢な表情で轟くんが僕を見下ろした。
なんて純粋な瞳なんだ。
僕の汚れきった煩悩まみれの薄汚い脳みそとは大違いだ。
こんな綺麗な表情を浮かべる純真の塊がそんなこと考えるわけないんだよな。
僕が間違ってた。
死にたい。
今の全部なかったことにしたい。
流石に自意識過剰すぎて無理だ。
自分で自分が無理だ。
苦しい。
「な、なんでもないよ轟くん…」
「ご、ごめんね、僕、あはは、轟くんがそんな事するはずないのに……」
取り繕う余裕もなくそのままを口にした。
轟くんはなんの事やら分からないと言った顔をしていたが、それでいい。
君はずっとそのままでいて欲しい。
こんな形容し難い想像を友達でしてしまうなんて、
いや、多少なりとも向こうにも非があるんだろうけど、
どんな関係だったとしても失礼だった。
僕がどんな想像をしていたのかはここには記さないでおくけれど。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!